河出書房新社が2003年に創刊した「奇想コレクション」の第1作です。ミステリ、SF、ホラー、現代文学のジャンルを超えて「すこし不思議な物語」の名作を集めるというシリーズのトップに『ハイペリオン』や『イリアム』の著者を持ってくるというのは、なかなか凝った人選です。
「黄泉の川が逆流する」死んだ人を蘇らせる協会に入った家族の物語。感情も言葉も失って蘇った母との同居に耐えられずに、家族は離散していきます。ふと気づくと街の暗がりには、行き場所を失ったゾンビたちがあふれ・・。
「ベトナムランド優待券」ベトナム戦争テーマパークというと、筒井康隆さんの『ベトナム観光公社』を思わせますが、かつてベトナムで地獄を見た老人の狂気がテーマになっています。やはり戦争をアミューズメントにしてはいけません。
「夜更けのエントロピー」事故で息子を失った保険調査員の記憶は、さまざまな死で満たされています。それは残された娘への異常な気遣いとなって現れますが、平衡化をうながすエントロピーの法則の支配からは逃れられないのです。
「ケリー・ダールを探して」教師に救いを求めていた薄幸の少女は、自分が逃げ込める世界を作り上げていました。成長した少女は、元教師に「わたしを探して殺して」と頼みます。究極の相互理解とは何なのでしょう。
「最後のクラス写真」ゾンビに支配された町で、ただひとり正気を保ち続ける女教師は、ゾンビとなった子どもたちを教え続けます。日常性にしがみつくために、非日常的な行為が必要とされる世界に、希望はあるのでしょうか。そういえば著者は元教師でした。
2010/11