りぼんの読書ノート

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ヴァンパイアハンター・リンカーン(セス・グレアム=スミス)

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前作高慢と偏見とゾンビは、徹底的なバカバカしさが面白かったものの、やはりジェーン・オースティンの世界をここまで凌辱してしまったことに抵抗感が残りました。

本作は、南北戦争を引き起こしケネディにまで引き継がれていく人種差別との戦いは、白人から黒人を解放する戦いであったのみならず、吸血鬼に支配される人類を解放する戦いであったという世界観のもとに、実際のリンカーン伝と整合性を保ちつつ歴史を改変した作品であり、完成度は高まっています。まさに「人民の人民による、人民のためのヴァンパイア狩り」なんですね。^^ もちろん得意の武器は「斧」!

幼少の頃に母親を亡くしたリンカーンは、母の死が吸血鬼の仕業だったと知り、吸血鬼たちを根こそぎ狩るという決意を固めます。さらに、ニューオーリンズで奴隷の存在が吸血鬼による人類支配の温床となっていると知ったリンカーンは、奴隷制度の廃止を掲げて合衆国大統領への道を突き進むのでした。

しかし、黒人奴隷を犠牲にし続けて白人と吸血鬼の共存を継続させようと考えるジェファーソンら南部の指導者たちはリンカーンの政策に反対し、ついに戦争が・・。数の上で劣勢だった南軍がしばしば北軍を圧倒したのは、不死身の吸血鬼兵士が加わっていたからとは!

理解に苦しむのはリンカーンに味方する吸血鬼ヘンリーの存在ですが、吸血鬼の中にも人類との真の共存を願っていた派閥があったということで納得しましょう。それにヘンリーがいなければ、度重なる暗殺の危機を脱したり、後世の大統領を助けたりできなかったわけですから。

リンカーンの日記をヘンリーから託されたという現代の著者が、実際の演説文や絵画や写真に見え隠れする吸血鬼の存在をたどって、日記の信憑性を確信していく構成も見事です。同時代に生きた作家エドガー・アラン・ポーと出会う場面などはとりわけ秀逸!

ポーが吸血鬼と関係の深い作品を書いていることは、萩尾望都の『ポーの一族』の主人公がエドガーとかアランと名づけられていることでも、おなじみですよね。

2012/2