りぼんの読書ノート

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大統領の秘密の娘 第1部~第2部(バーバラ・チェイス=リボウ)

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アメリカ独立宣言の起草者としても有名な第3代アメリカ合衆国大統領トマス・ジェファソンは、「建国の父」のひとりとして多くの人々から尊敬されている人物です。本書の各章前に引用されている著作や書簡の文章も、高邁な理念を格調高く高らかに歌い上げたものばかり。しかしそのような人物に黒人奴隷の愛人がいて、混血の子供たちがいたというから驚きます。このことは大統領選挙中にスキャンダルとして攻撃材料に用いられたものの無視され、長らく忘れられていましたが、近年になってDNA鑑定によって事実として認定されたとのこと。

 

本書は、ジェファーソンが奴隷妻と交わした許されぬ愛を描いた『サリー・ヘミングズ(未読)』に続いて著されました。白人としての外見を有していた2人の娘ハリエット・ヘミングズについては、21歳の時にヴァージニアにあったジェファーソンの農園から脱走した記録があるだけで、本書の内容は全くのフィクションです。しかし著者は本書において、白人社会への「逃亡」を果たしながら、生涯に渡って人種問題に苦悩しつつも奴隷制に反対し続けた魅力的な人物を創造したのです。

 

第1部と第2部では彼女の「逃亡」が描かれます。年老いた実父ジェファーソンが死の直前に解放したのは息子たちだけであり、母親サリーも娘ハリエットも農園の財産として相続される運命にありました。黒人女性とは、二重に差別されている存在だあったわけです。経済的危機に陥っている農園がやがて第三者へと売却されることを知ったハリエットは、母親によって逃亡を勧められます。すでに死の床にあったジェファーソンの配慮によって、ハリエットは北部のフィラデルフィアに脱出し、「孤児となった白人資産家の娘」という偽りの身分を入手。

 

白人女性のための学校でシャーロットという生涯にわたる親友を得たハリエットは、薬学の研究をしている真面目な青年サンスから愛を告げられます。しかし彼女は法的には南部から逃亡してきた黒人奴隷にすぎません。しかも先進的なフィラデルフィアにおいてすら、白人と黒人の結婚は認められないどころか犯罪だったのです。親友や恋人に秘密を持ち続けることや、自らの出自が明かされることを恐れながらも、両親それぞれの意思を再確認したハリエットは、白人女性として生きぬくことを決意するのでした。まだ物語の起点にすぎませんが、前置きが長くなりましたので、第3部以降は別の記事とします。

 

2021/6