りぼんの読書ノート

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ミッション・ソング(ジョン・ル・カレ)

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アイルランド人宣教師とコンゴ人女性の間に生まれた主人公のサルヴォは、英国で高等教育を受けて一流の通訳となっていますが、アフリカの諸語に通じていることから、時おり政府依頼の仕事も受けています。

英国政府情報部の依頼で急遽、サルヴォが通訳を命じられた秘密会議の目的は、西部にある首都キンシャサからは収奪され、東隣のルワンダから侵略を受けて長らく政情不安定であったコンゴ東部のキヴ地方の自立を目論むものでしたが、そここそはサルヴォが生まれた故郷だったのです。

キヴの平和的な自立を掲げる偉大な政治家ムワンガザのもとに集まったのは、ツチ系バニャムレンゲ代表のデユドネ、民兵組織マイマイ団のフランコ将軍、新興勢力である政商の後継者アジら多様な反政府勢力でしたが、会議主催者の背景にいるのはキヴの豊富な地下資源を狙う正体不明のシンジケートであり、彼らが武力クーデターを起こそうとしていることに気づいてしまいます。

サルヴォは、英国に看護師の研修に来ているキヴ出身の恋人ハンナとともに、英国政府の上層部や、英国にいるムワンガザの腹心らに、クーデター計画の阻止を訴えるのですが、逆に機密漏洩の罪で追われる身に・・。

『リトル・ドラマー・ガール』『スクールボーイ閣下』を髣髴とさせるほど、綿密な調査に基づいて細部まで丁寧に書き込まれており、巨匠ル・カレらしい「リアリティを有するフィクション」ですね。

タイトルは、拷問を受けてクーデターへの参加を誓わされたアジが歌った、盗聴器を通して聞いていたサルヴォに送ったメッセージソングからきています。それは「純潔を神に誓って死んでいく少女の哀歌」。
各勢力に蹂躙され続け、先進諸国からは無視されている東コンゴの状況が少女の運命と重なってきます。

2012/1