りぼんの読書ノート

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戦争の犬たち(フレデリック・フォーサイス)

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フォーサイス自身が赤道ギニアのクーデター支援を試みたという噂がある本書は、前2作にも増して事実とフィクションが混然一体としている作品です。 

 

アフリカ某国から傭兵たちが撤退する冒頭と、意外な勢力が登場する結末が、著者が描きたかったことであり、また実現したかったことであるのは明白です。秘密裡にプラチナ採掘権の奪取を目論む大企業の陰謀は、誰がなぜクーデターを目論んだのかを明かすために必要な導入部分。しかし本書の大半を占めるのは、徹底してリアスティックなクーデター準備です。傭兵仲間への連絡、情勢分析と作戦立案、武器弾薬や船舶の調達と各国官庁との折衝。地道な作業を丹念に積み上げていく過程が、戦闘シーンよりも面白いなんて、当時はとっても斬新でした。 

 

そして物語の全てを支えていたのが、傭兵たちが抱いていたロマンであったというラストシーンには、本気で心を打たれたものです。キースがシャノンに言ったという「ほんとは金じゃないよ。金のために戦ったことなんか、一度だってないぜ」の言葉にはグッときてしまったものです。もちろんこれは著者自身の心意気であることは明白なのですが。本書を書き上げた著者が絶筆を宣言したことが頷ける、会心の作品ですね。もちろん絶筆は後に取り消されていますが。 

 

2020/9再読