この著者のことは、白水社の「エクス・リブリス」から刊行されている『通話』と『野生の探偵たち』で知りました。それ以外にも同じ白水社から「ボラーニョ・コレクション」として既に7作刊行されていますが、本書はその1冊。
本書は、短編集『アメリカ大陸のナチ文学 』に登場する人物のエピソードを、あらためて長編として綴った作品です。アルトゥーロ・Bとして登場する語り手は、もちろん著者の分身です。
冒頭に登場する謎めいた偽学生のルイスは、ハンサムで才能ある詩人である反面、どこか邪悪さを漂わせています。感じさせます。数年後、飛行機雲で詩を綴ることで有名になったチリ空軍パイロットのカルロス・ビーダーが、かつてのルイスと同一人物であることが判明。しかし彼は、崇拝者だった女子学生たちを含めて、多くの女性を猟奇的に殺害していた変質者だったのです。さらに長い年月が経った後に、亡命先のスペインで語り手とカルロスの運命が再び交差していきます。
本書のサイドストーリーとして、語り手が学生時代に詩のゼミを主催していた2人の人物の消息が語られます。クーデター後に死刑に処せられたとか、中南米各地を転戦するゲリラとなったとか、亡命先でネオナチの殺害されたとか、両腕を失って道化となったとか、あるいはチリを一歩も出ることなく寂しく亡くなったとかの噂が飛び交うのですが、もちろん真相はわかりません。
タイトルは、亡命先から故郷を「はるか彼方」と偲ぶ著者の視線に沿っているのでしょう。著者が繰り返して綴っている「詩人」、「失踪」、「亡命」、「根源悪」などのテーマが全て揃っており、展開も比較的平易な中編なので、はじめてボラーニョを読もうとする方にもお勧めできる作品です。
2018/7