2019-12-01から1ヶ月間の記事一覧
2019年に読んだ本は272作品。例年より少ないのですが、2度の引越しなど生活環境が激変したことを思うと、健闘したほうかもしれません。今年も最後に1年を振り返っての「ベスト本」を選んでみました。 ・長編小説部門(海外):『ピュリティ(ジョナ…
今月の収穫は、深緑野分さんという作家を知ったこと。ジャンルとしてはミステリなのでしょうが、独特の作品世界を創り出す能力を有する方とお見受けしました。次点にあげた『ぼくらが漁師だったころ』は、少年の不思議な体験とナイジェリアの現代史を重ね合…
すでに奈良・平安時代の小説の書き手として第一人者の感がある著者が、舞台を関東に移して描いたのは、「平将門の乱」でした。視点人物は、真言声明の師と思い定めた人物を追って京から東国へと下った僧・寛朝。彼が将門討伐を祈祷したとされる不動明王が、…
ピカソ、ダリ、シャガール、マティス、ルノワール・・。30年間に渡って贋作を作り出してきた人物が、実名で著わした半生記です。彼の贋作とは単なる模写ではなく、巨匠の「未発見の新作」を生み出すこと。そのためには画家本人になりきって描くという神業…
1992年に『ななつのこ』でデビューした著者が1996年に著わした比較的初期の作品ですが、著者独特の「さわやかな日常の謎」からはかなり遠いところに位置しています。 物語は、引っ越しのために部屋を片づけて千波が、読んだ覚えのない本を見つけると…
主に欧州を舞台とした『オーブランの少女』と『戦場のコックたち』に続く3冊目の単行本は、日本を無体とする青春ミステリでした。もっとも時代は1999年7月。ノストラダムスによって人類滅亡が予言された時のこと。 高校生のあさぎは、2年前に急逝した…
先史時代からテユーダー朝までの歴史を記した上巻に続く下巻では、17世紀から現代までが描かれます。外国からの干渉を排除するために生涯独身を通したエリザベス1世でテユーダー朝は絶え、スコットランド王ジェームズがステュアート朝を開きます。英国教…
ほぼ単一民族の国である日本の歴史と比較すると、紆余曲折をたどるイギリス史は複雑なので、ときどき復習しないと混乱してしまいます。「王権と議会」をテーマとして上下2巻にまとめた手頃な新書を読んでみました。 上巻は先史時代からテユーダー王朝が成立…
著者のデビュー作である『オーブランの少女』が面白かったので、直木賞と本屋大賞の候補になった本書を手に取ってみました。 本書の舞台は第二次大戦末期の欧州。合衆国陸軍空挺隊のコック兵となった19歳のティムが、ノルマンジー上陸からベルリン解放まで…
「守り人シリーズ」の著者のデビュー作です。文化人類学者でありながら良質なファンタジー小説を生み出し続けている著者ですが、学生時代に書いたこの作品がもっと早く世に出ていたなら、初めから作家の道を歩んでいたかもしれないとのこと。しかし文化人類…
TVドラマ化されたお仕事小説の続編です。絶対に残業しない主義の結衣が、なんと管理職になってしまいます。しかも上司は元婚約者でワーカホリックな晃太郎。新人教育を任されたものの個性的すぎる若者たちに翻弄される毎日。 そんな中、差別的なCMで炎上…
1945年4月に自殺したとされるヒトラーが、突如2011年のベルリンに蘇ったら何が起こるのでしょう。はじめは時代のギャップに驚いたヒトラーですが、すぐに状況を理解して、ゼロから運動を立ち上げていこうと決意します。一方で周囲の人々は彼をヒト…
数か月前に著者の自伝である『アウトサイダー』を読んで、本書を再読してみました。相当前に読んだので、本書そのものよりも、ブルース・ウィリスが主演した映画の印象のほうが強かったのですが、あらためて読んでみると原作のほうがスリリングですね。映画…
ナイジェリアを舞台にした『ぼくらが漁師だったころ(チゴズィエ・オビオマ)』を読んで、この国の歴史に興味が湧きました。かつての奴隷輸出国、独立直後のビアフラ戦争、何度も繰り返さえたクーデター、最近ではイスラム過激組織であるボコ・ハラムの跳梁…
舞台は1990年代のナイジェリア。ビアフラ内戦の記憶もまだ消え去っておらず、人種間対立も解消されず、何度も軍事クーデターに見舞われた国であることが、本書のテーマの底流に流れています。 主人公は南西部の町アクレに住む9歳の少年ベン。中央銀行に…
「勾玉シリーズ」の第5巻である本書は、2005年に出版された前巻『風神秘抄』から直接続く物語。2015年に出版されていたのを見過ごしていました。10年ぶりですからほとんど忘れていたのです。 本書の主人公は、伊豆に配流された15歳の源頼朝。か…
先月の『回復する人間(ハンガン)』に続いて、現代韓国の若手女流作家の作品集を読みました。隣国から見ても問題の多そうな国ですから、若者たちが不条理感を抱くのも無理はありません。カフカにも例えられる著者の作品ですが、ところどころに韓国らしさも…
著者は、パート書店員から専業作家に転身した若い女性です。基本はミステリなのですが、2010年に本書でデビューした後、すでに2度も直木賞候補となっているという実力の持ち主。この著者の作品をはじめて読みましたが、確かに独特の視点を備えた作家で…
かつてMOMA勤務経験もある著者による「青春xアートxラブコメ」は、謎めいたアート窃盗集団を主人公に据えた『アノニム』よりもずっといい作品に仕上がっています。 本書の主人公は、政治家を父に持つアーティストの卵であり、同性を恋愛対象として感じ…
太宰治の次女である著者は、1985年に9歳の息子を亡くして以来、「母が亡き子を想う」とのテーマの作品を書き連ねています。本書はその構図を転倒させて、亡くなった母親とあとに残された息子という設定の作品なのですが、互いに喪失感を抱く母と息子と…
肖像彫刻の極意とは、実在した人物が生きていた時間をその中に封じ込めることなのでしょう。しかし本書の主人公となる高山正道は、ローマン彫刻の確かな技術を身に着けながらも、芸術家として身を立てるに至らず、田舎に籠って注文制作を受ける仕事すら軌道…
「下町ロケットシリーズ」の第4弾は、前作『ゴースト』の直接の続編でした。農機具のトランスミッション用バルブを開発したものの、下町のベンチャー企業「ギアゴースト」の伊丹社長の突然の変心によってビジネスチャンスを失った佃製作所の巻き返しはなる…