りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2011-01-01から1ヶ月間の記事一覧

2011/1 あんじゅう 三島屋変調百物語事続(宮部みゆき)

宮部みゆきさんの「三島屋変調百物語シリーズ」2作めの『あんじゅう』は、全ページに南伸坊さんのイラストがつくという豪華版。クライマックスへと向かう盛り上がりは前作の『おそろし』には及ばなかったと思いますが、ストーリーテラーぶりはさすがです。 …

桜小町-ひやめし冬馬四季綴1(米村圭伍)

「現代の講談家」を自認する米村さんの新シリーズは、「冷や飯食い」と呼ばれる武士の次男・三男たちを主人公にした得意のテーマなのですが、今までと何かが違っています。「語り」のような文体である、独特の「ですます調」が消えている! 22歳となった下…

ハリー・ウィンストンを探して(ローレン・ワイズバーガー)

学生時代からの仲良し3人組のエミー、リー、アドリアナは、美貌にもお金にも恵まれたセレブな生活をニューヨークでおくっているのですが、30歳の誕生日を1年後に控えてそれぞれ悩みを抱えてしまいます。 幸せな結婚を夢見ていた家庭的なエミーは、5年間…

刻まれない明日(三崎亜記)

『失われた町』の続編というより、姉妹編とでも位置づけられる作品でしょうか。突然3095人の人間が消え去った事件から10年。大切な人を失った人々が、悲しみを乗り越えて新たな一歩を踏み出そうとする姿を描いた小説ですが、三崎さんのシュールさが薄…

時の地図(フェリクス・J.パルマ)

1896年のロンドンを舞台に、タイムトラベルをテーマにした3部構成の作品です。ロンドンでは「タイム・マシン」がブームになっていました。ひとつには、H・G・ウエルズが前年に発表した同名の小説が大ヒットしたためであり、もうひとつは、実際に20…

オラクル・ナイト(ポール・オースター)

充実期にある著者が、初期の「ニューヨーク3部作」のテーマに再び挑戦した作品との印象を持ちました。いくつもの物語が何層にも組み込まれた、迷路のような世界から再び歩き始める主人公が、そこにはいるのです。 主人公のシドニーは、重病から生還したばか…

無限(ジョン・バンヴィル)

アイルランドの片田舎に建つ屋敷の中で生死の境をさまよっている老数学者アダムを、家族たちが取り囲んでいるだけの小説なのですが、奥の深さを感じます。 アダムの死を待つためだけに集まっているのは、若き後妻のアーシュラ、父と同名の息子アダム、リスト…

すれ違う背中を(乃南アサ)

『いつか陽のあたる場所で』に続く、ムショ帰り女性コンビのシリーズ第2弾。 「過去」に怯えて新たな一歩を踏み出すことをためらっている30歳の芭子と、パン屋になる夢を持って精一杯に暮らしている40歳の綾香が、互いに支えあって生きていく物語。どこ…

孔子の空中曲芸(ダイ・シージエ)

自ら文革時代に下放された経験を有し、文革の中の青春をテーマにした小説をフランス語で描いてきたパリ在住の作家が次に選んだのは、明王朝末期の皇帝を主人公に据えたファンタジックな艶笑譚でした。 明王朝滅亡の要因をつくったとされる第11代皇帝「正徳…

烏金(西條奈加)

『金春屋ゴメス』で「タイムスリップを使わない江戸時代SF」というジャンルを開いて「ファンタジーノヴェル大賞」を受賞した著者は、どうやら「時代小説作家」への転進を決めたようです。でも彼女は、時代小説に現代的な視点を持ち込んでくれました。 西條…

凶器の貴公子(ボストン・テラン)

ボストン・テランの3作めの作品になります。舞台はサンフランシスコ湾に注ぐサクラメント川の河口付近に広がる広大デルタ地帯。旅行計画を立てていたときに「発見」して、ドライブルートを検討したことがあって、サクラメントやストックトンやリオ・ヴィス…

有村ちさとによると世界は(平山瑞穂)

膨大な文字列からの情報抽出能力を持つものの、人間相手の意思疎通を苦手としている女性、有村ちさとが、個人情報漏洩事件に巻き込まれた顛末を描いた『プロトコル』の姉妹編でもあり、続編でもある作品。ちさとを巡る、父親、上司、妹の物語に加えて、「そ…

6人の容疑者(ヴィカス・スワラップ)

デビュー作の『ぼくと1ルピーの神様』が「スラムドッグ$ミリオネア」として映画化され、アカデミー賞作品賞など多くの映画賞を受賞した、インド人外交官作家の第2作です。 前作でもそうでしたが、この方は、現代インドという舞台にマッチしたプロットを操…

宮廷の愛人 - ブーリン家の姉妹3(フィリッパ・グレゴリー)

16世紀テューダー朝の歴史を、愛憎と謀略の側面から描いたシリーズ第3作。映画化もされた第1作『ブーリン家の姉妹』のシリーズのような副題がついていますが、すでに内容とは合っていませんね。 幼い頃から保身を余儀なくされる不遇な少女時代をおくり、…

ひそやかな花園(角田光代)

幼い頃、毎年サマーキャンプで一緒に過ごしていた7人の男女にとって、輝く夏の思い出は謎に満ちていました。父親たちは次第に参加しなくなり、最後には消滅した集まりについて、両親はその出来事をなかったことにしようとしているようなのです。 『三月の招…

エアーズ家の没落(サラ・ウォーターズ)

名手サラが描く、英国における領主の没落の物語。第二次世界大戦終了後、英国の領主階級が衰退していく中で、かつて隆盛を誇ったエアーズ家も例外ではありませんでした。戦争で傷ついた若き当主のロデリックは領地を切り売りして家系を支える生活にストレス…

バイバイ、ブラックバード(伊坂幸太郎)

伊坂さんはこの作品について「理不尽なお別れはやり切れません。それでも無理やり笑って、バイバイと言うような、そういうお話を書いてみました」と言っています。太宰治の絶筆『グッド・バイ』から想を得て書かれた物語。 5人の女性と「誠実に」付き合って…

ユダヤ警官同盟(マイケル・シェイボン)

安ホテルで殺害されたヤク中の正体と犯人を追う捜査の中から、とんでもない陰謀が浮かび上がってくる物語なのですが、その陰謀を理解するためにはこの世界の背景を知らなくてはなりません。 場所はアラスカのシトカ。第二次大戦前夜、ドイツにおけるユダヤ人…

小説 ルパン三世(大沢在昌ほか)

5人の作家による、「ルパン三世小説」の競作です。登場人物たちはアニメでお馴染みの国民的キャラクターですから、紹介不要どころか、ルパンや次元や五右衛門や不二子や銭形の声が本の中から聞こえてくるようですし、テーマソングだって頭の中で鳴り響いて…

神は銃弾(ボストン・テラン)

最新作『音もなく少女は』で知った作家のデビュー作です。激しい憎悪と暴力と破壊に満ちた小説ですが、ここまで徹底するとむしろすがすがしい。最新作を先に読んでしまったため、後追い的な評価となってしまう部分もあるのですが、純文学的な香りに満ちてい…

ツーリスト(オレン・スタインハウアー)

「沈みゆく帝国のスパイ」と副題のついた本書は、翻訳に難があるとの指摘はあるものの、なかなか読ませてくれる、最近まれな「面白い」スパイ小説でした。解説で霜月蒼さんは「スパイ小説をつまらなくしたのは冷戦構造の崩壊ではない」とコメントしています…

ペンギン・ハイウェイ(森見登美彦)

小学4年生のアオヤマ君たちの住む郊外の町に、突如不思議なペンギンたちが現れます。しかも、どうやらペンギンを作り出しているのは、歯科医院のお姉さんのようなのです。毎日の研究成果をノートにつけ、明日は今日より賢くなろうと決意しているアオヤマ君…

密会(ウィリアム・トレヴァー)

1928年にアイルランドに生まれてイギリスに暮らす、英文学界の重鎮による短編集。本書は76歳の時に執筆されたものですが、どの作品も「円熟」という言葉がぴったりで、登場人物の心の奥底で揺れ動く感情を鮮やかにすくい取った手際のよさを感じます。…

プロトコル(平山瑞穂)

「プロトコル」とは、コンピュータ通信における約束事をさす情報処理用語ですが、もともとは人間どうしが交流する際の規則や手順などを指す言葉だったそうです。 大手ネット通販会社に勤務する有村ちさとは「膨大な文字列をひとめで記憶でき、そこから意味の…

あんじゅう 三島屋変調百物語事続(宮部みゆき)

心に深い傷を負い、叔父夫婦の営む神田の三島屋で行儀見習い中のおちかが聞き採る「不思議」の物語。『おそろし』に続く「三島屋変調百物語シリーズ」の第2弾。今回は4組の語り手が登場します。 「逃げ水」 山奥に祀られたまま忘れられた旱神(ひでりがみ…

ドラゴンがいっぱい!(ジョー・ウォルトン)

2011年のはじめは、楽しい本からスタートしましょう。『ファージング三部作』で大ブレークした著者が、以前に著した作品です。 新興貴族であるアゴールニン男爵家は、一家に隆盛をもたらした当主ボンの死によって、揺れ動きます。嫡男ベンは既に僧籍に入…