りぼんの読書ノート

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ドラゴンがいっぱい!(ジョー・ウォルトン)

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2011年のはじめは、楽しい本からスタートしましょう。『ファージング三部作』で大ブレークした著者が、以前に著した作品です。

新興貴族であるアゴールニン男爵家は、一家に隆盛をもたらした当主ボンの死によって、揺れ動きます。嫡男ベンは既に僧籍に入っているため、次男エイヴァンが爵位と領地を次ぐと思われていた中で、長女べレンドの嫁ぎ先であるデヴラク子爵が横暴にも遺産の大半を横取りしてしまったのですから。

首都で働いているエイヴァンは直ちに訴訟を起こそうとしますが、父親という庇護者を失ってベンとデヴラクにそれぞれ引き取られた若い姉妹、セレンドラとヘイナーは、事を荒立てることを恐れる親族たちによって、訴訟をあきらめるよう説得を受けます。そんな中、セレンドラとヘイナーには、それぞれ身分違いの求婚が・・。

高慢と偏見』のようなヴィクトリア小説を思い浮かべる方も多いと思いますが、本書の主人公たちはドラゴンです。かつて人間たちの侵略を受けたドラゴン族は銃器を手にすることによって独立を回復し、今は独自の文化を育んでいるんですね。でも、それが人間世界の「古きよき時代」そっくりなんです。

ベレンディ伯爵領の教区牧師となっているベンはかつての学友で今は雇い主となった若い伯爵との距離感に悩み、ベンの妻フェリンは気難しい老伯爵夫人と良好な関係を保つべく賢く振る舞い、エイヴァンは街娼あがりの書記嬢セベスとの結婚に踏み切れず、うら若き乙女たちは下層階級の者たちの過酷な生活に涙を流しつつも、流行の帽子に目の色を変えたりして、まさにヴィクトリア小説のカリカチュア。(ゾンビよりは普通かも?)

でも、そこはドラゴンですから、イギリス貴族の生活とは異なっています。館に改造した洞窟で黄金を敷いたベッドに眠ることを好み、身体が大きいことや火を吐く能力がステイタスで、しかもドラゴンの肉を食べることが成長の秘訣。故アゴールニン男爵の一番の遺産とは、実は遺骸の肉そのものだったんですね。ちょっとおぞましい気もしますが、そこは弱肉強食のドラゴンですから・・。

楽しいのは、女性の身体の色が成長に連れて変わっていくこと。男性を意識するとピンクに、経験すると赤色を増していくんですね。そんなにあからさまになってしまうのは、別の意味でおぞましいかも。^^;

最後は「ヴィクトリア小説的な大団円」となりますが、ドラゴンに仮託した世界は、表面はとりつくろっても野蛮さを残している貴族生活の本質を、見事に衝いていると思えたのですが、いかがでしょう。

なお、文中で「公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵」と書きましたが、本書での翻訳は「甲爵、蚣爵、珀爵、士爵、啖爵」となっていますので、念のため。^^

2011/1