今年も1年を振り返っての「ベスト本」を選んでみました。
長編小説部門(海外)
メイスン&ディクスン(トマス・ピンチョン)
天文学者と測量士のコンビが独立前のアメリカに「線」を引いていくコミカルな珍道中記ですが、笑いの中から浮かび上がってくるのは「奴隷制」に対する痛烈な批判です。この2人が引いた「メイスン=ディクソン線」は、後に南部奴隷州と北部自由州を隔てる境界線として南北戦争の舞台となるのですから。1000ページを超える大作の最後には清冽な感動も・・。長編小説部門(日本)
小暮写眞館(宮部みゆき)
心霊写真がテーマですが、それは過去に決着をつけるためのきっかけにすぎません。全体を通してみると、主人公の少年が家族の中にあった最大のタブーに気づいて、「家族の絆」という大きなテーマに立ち向かい、それがまた恋心を抱いた女性との別れに繋がっていく成長物語になっているんですね。完成度の高さに驚かされます。村上春樹さんの『1Q84 Book3』は、これではまだ完結していないように思えましたし、桐野夏生さんの『ナニカアル』は、林芙美子という題材に負う部分が大きいようでしたし、船戸与一さんの『新・雨月(船戸与一)』のテーマは、刊行中の『満州国演義』の中でより大きなスケールで再現されつつあるような気がしましたので、本書としました。年内に『あんじゅう』も読みたかったなぁ。
短編小説部門
奇想と微笑 太宰治傑作選(森見登美彦編)
『【新釈】走れメロス』で、メロスをパンツ番長にしてしまった森見登美彦さんが編んだ、太宰治の傑作選。太宰治といえば「諧謔と自虐」の印象が深いのですが、この短編集の作品にもその特徴はいかんなく発揮されています。ただ「諧謔と自虐」の裏にある「奇想と微笑」にまで踏み込んで読み込むことが、本書のテーマなのでしょう。ノンフィクション部門
武士の家計簿(磯田道史)
味も素っ気もない家計簿の中から、これだけの物語が浮かび上がってくるのですから、饅頭1個の購入履歴まで記していた猪山家も、それを読み解いて徳川時代の武士の貧困や、明治の動乱期での武士の処世を、まざまざと描き出した著者も、素晴らしい! 本書が映画化されたのも頷けますし、「新ジャンル」を切り開いた感すらあります。ジャレド・ダイアモンドの大著『銃・病原菌・鉄』と『文明崩壊』は、それぞれ10年前と5年前の出版でしたので選びませんでしたが、「人類史を歴史科学として研究する」という、自らが打ち出した課題に対するひとつの回答となっている壮大な作品です。
今年も素晴らしい本とたくさん出合えました。
2011年もいい1年にしたいものです。
家庭も、仕事も、読書もね。それと健康も。^^
2011年もいい1年にしたいものです。
家庭も、仕事も、読書もね。それと健康も。^^
来年もよろしくお願いいたします。