森見登美彦さん編集の『太宰治傑作選』に素晴らしい作品が揃っているのは当然ですが、今月読んだ本の中では、日本の小説に佳作が多かったように思います。 ただし1位には、現代社会の中で「天国の到来を声高に告げながら地獄を生み出している天啓を受けた者ども」の所業を暴き出す、マルコス・アギニスの作品を置きました。前作『マラーノの武勲』に続き、南米の闇をドラマチックに描く「圧倒的な小説」でした。1.天啓を受けた者ども(マルコス・アギニス)
「正義」の名の下で人はどれだけ悪事を行なってきたのか。史実を絡めて南北アメリカの暗部を暴きだした、壮大なスケールの作品です。本書の魅力を一段と増しているのは、それを3組の男女の愛憎劇として描いたこと。彼らの思いと運命が、驚愕の結末に向けて収斂していく展開も素晴らしいのです。「圧倒的な小説」です。
2.奇想と微笑 太宰治傑作選(森見登美彦編)
『【新釈】走れメロス]』で、メロスをパンツ番長にしてしまった森見登美彦さんの編んだ傑作選です。太宰といえば「諧謔と自虐」の印象が強いのですが、この短編集においてもその特徴はいかんなく発揮されています。ただ「諧謔と自虐」にとどまらず、その奥にある「奇想と微笑」にまで踏み込んで読み込むことが、本書のテーマなのでしょう。
『【新釈】走れメロス]』で、メロスをパンツ番長にしてしまった森見登美彦さんの編んだ傑作選です。太宰といえば「諧謔と自虐」の印象が強いのですが、この短編集においてもその特徴はいかんなく発揮されています。ただ「諧謔と自虐」にとどまらず、その奥にある「奇想と微笑」にまで踏み込んで読み込むことが、本書のテーマなのでしょう。
3.七人の敵がいる(加納朋子)
育児と仕事を何とか両立してきた陽子ですが、息子の小学校入学とともにはじまったPTA、学童父母怪会、地域子供会などの活動に悲鳴をあげてしまいます。めちゃくちゃ楽しい、ワーキング・マザーのPTA奮戦記ですが、かなりの部分が「現実」なのでしょう。重いテーマを楽しくかつハートウォームな物語に仕上げた加納さんは、目の離せない作家になってきたように思います。
育児と仕事を何とか両立してきた陽子ですが、息子の小学校入学とともにはじまったPTA、学童父母怪会、地域子供会などの活動に悲鳴をあげてしまいます。めちゃくちゃ楽しい、ワーキング・マザーのPTA奮戦記ですが、かなりの部分が「現実」なのでしょう。重いテーマを楽しくかつハートウォームな物語に仕上げた加納さんは、目の離せない作家になってきたように思います。
4.船に乗れ(藤谷治)
音楽一家に生まれてチェロを学ぶ津島サトルの高校生活を描いた青春音楽小説です。シンプルなストーリーなのですが、音楽の世界が丁寧に描かれていることに加えて、少年の揺れる心が「内省的」に、しかもひたむきさを失わずに語られている魅力的な作品となっています。だから「船に乗れ」の言葉が教訓めかずにすんだのですね。
【次点】
・だから、ひとりだけって言ったのに(クレール・カスティヨン)
音楽一家に生まれてチェロを学ぶ津島サトルの高校生活を描いた青春音楽小説です。シンプルなストーリーなのですが、音楽の世界が丁寧に描かれていることに加えて、少年の揺れる心が「内省的」に、しかもひたむきさを失わずに語られている魅力的な作品となっています。だから「船に乗れ」の言葉が教訓めかずにすんだのですね。
【次点】
・だから、ひとりだけって言ったのに(クレール・カスティヨン)
【その他今月読んだ本】
・交渉人・籠城(五十嵐貴久)
・平ら山を越えて(テリー・ビッスン)
・天地明察(冲方丁)
・緑金書房午睡譚(篠田真由美)
・第81Q戦争(コードウェイナー・スミス)
・ブレイズメス1990(海堂尊)
・奪い尽くされ、焼き尽くされ(ウェルズ・タワー)
・国芳一門浮世絵草紙4 浮世袋(河治和香)
・修道士カドフェル9 死者の身代金(エリス・ピーターズ)
・食堂かたつむり (小川糸)
・エデン(近藤史恵)
・シャーロック・ホームズ最後の挨拶(コナン・ドイル)
・人形つかい(ロバート・A.ハインライン)
・シェル・コレクター(アンソニー・ドーア)
・葛野盛衰記(森谷明子)
・星と輝き花と咲き(松井今朝子)
・火星年代記(レイ・ブラッドベリ)
・スターバト・マーテル(篠田節子)
・忍法八犬伝(山田風太郎)
・カリフォルニアの炎(ドン・ウィンズロウ)
・交渉人・籠城(五十嵐貴久)
・平ら山を越えて(テリー・ビッスン)
・天地明察(冲方丁)
・緑金書房午睡譚(篠田真由美)
・第81Q戦争(コードウェイナー・スミス)
・ブレイズメス1990(海堂尊)
・奪い尽くされ、焼き尽くされ(ウェルズ・タワー)
・国芳一門浮世絵草紙4 浮世袋(河治和香)
・修道士カドフェル9 死者の身代金(エリス・ピーターズ)
・食堂かたつむり (小川糸)
・エデン(近藤史恵)
・シャーロック・ホームズ最後の挨拶(コナン・ドイル)
・人形つかい(ロバート・A.ハインライン)
・シェル・コレクター(アンソニー・ドーア)
・葛野盛衰記(森谷明子)
・星と輝き花と咲き(松井今朝子)
・火星年代記(レイ・ブラッドベリ)
・スターバト・マーテル(篠田節子)
・忍法八犬伝(山田風太郎)
・カリフォルニアの炎(ドン・ウィンズロウ)
2010/10/31記