りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2010/10 天啓を受けた者ども(マルコス・アギニス)

森見登美彦さん編集の『太宰治傑作選』に素晴らしい作品が揃っているのは当然ですが、今月読んだ本の中では、日本の小説に佳作が多かったように思います。

ただし1位には、現代社会の中で「天国の到来を声高に告げながら地獄を生み出している天啓を受けた者ども」の所業を暴き出す、マルコス・アギニスの作品を置きました。前作『マラーノの武勲』に続き、南米の闇をドラマチックに描く「圧倒的な小説」でした。
1.天啓を受けた者ども(マルコス・アギニス)
「正義」の名の下で人はどれだけ悪事を行なってきたのか。史実を絡めて南北アメリカの暗部を暴きだした、壮大なスケールの作品です。本書の魅力を一段と増しているのは、それを3組の男女の愛憎劇として描いたこと。彼らの思いと運命が、驚愕の結末に向けて収斂していく展開も素晴らしいのです。「圧倒的な小説」です。

2.奇想と微笑 太宰治傑作選(森見登美彦編)
『【新釈】走れメロス]』で、メロスをパンツ番長にしてしまった森見登美彦さんの編んだ傑作選です。太宰といえば「諧謔と自虐」の印象が強いのですが、この短編集においてもその特徴はいかんなく発揮されています。ただ「諧謔と自虐」にとどまらず、その奥にある「奇想と微笑」にまで踏み込んで読み込むことが、本書のテーマなのでしょう。

3.七人の敵がいる(加納朋子)
育児と仕事を何とか両立してきた陽子ですが、息子の小学校入学とともにはじまったPTA、学童父母怪会、地域子供会などの活動に悲鳴をあげてしまいます。めちゃくちゃ楽しい、ワーキング・マザーのPTA奮戦記ですが、かなりの部分が「現実」なのでしょう。重いテーマを楽しくかつハートウォームな物語に仕上げた加納さんは、目の離せない作家になってきたように思います。

4.船に乗れ(藤谷治)
音楽一家に生まれてチェロを学ぶ津島サトルの高校生活を描いた青春音楽小説です。シンプルなストーリーなのですが、音楽の世界が丁寧に描かれていることに加えて、少年の揺れる心が「内省的」に、しかもひたむきさを失わずに語られている魅力的な作品となっています。だから「船に乗れ」の言葉が教訓めかずにすんだのですね。
 
【次点】
だから、ひとりだけって言ったのに(クレール・カスティヨン)


2010/10/31記