りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2007/5 空中スキップ(ジュディ・バドニッツ)

マンローもアクーニンもいいけど、今月のお奨めは、ジュディ・バドニッツ。長編『イースターエッグに降る雪』は2002年に出版されていましたが、今年、岸本さんが訳した短編集『空中スキップ』で、ブレイクでしょうか。

いきなり世界が変わってしまうような、めまいすら感じさせる「跳ぶ」作風は、どちらかというと短編向きかな。新作「Nice Big American Baby」の翻訳も待たれます。
1.空中スキップ (ジュディ・バドニッツ)
めくるめく「バドニッツ体験」! 彼女の作品は「跳ねて跳ぶ」のです。ありえない設定や、とんでもない展開が、冷静でリアリスティックな視点から語られるとき、私たちの世界も揺らぎます。私にはツボに来ましたが、彼女のダークさに抵抗ある読者もいるかも?

2.イースターエッグに降る雪 (ジュディ・バドニッツ)
魔術的エピソードに溢れる東欧の貧しい村から抜け出したイラーナは、旧世界の持つ魔力から最後まで自由になれなかったのでしょうか。「失われつつあるホロコーストの記憶を伝承させていきたい」との強い気持ちに後押しされて、作者はこの本を書いたとのこと。『空中スキップ』の世界を東欧的なものでくるんだような長編です。

3.【新釈】走れメロス (森見登美彦)
本屋大賞2位、山本周五郎賞を受賞するなど人気沸騰中の森見さんが、日本近代文学の古典を現代に蘇らせました。「山月記」の主人公には自意識高く文学を志す京大生をもってきて、「走れメロス」で友情を確かめるために走り続けたのはパンツ番長! 単なるパスティーシュではなく、しっかりとした森見ワールドの出来上がり!

4.林檎の木の下で (アリス・マンロー)
スコットランドから海を渡ってカナダに根を張った祖先たちから自分自身へと続く「一族の物語」を、短編の名手が描きます。祖先や過去の自分に対する恥ずかしさや痛みを、読者の前にさらけだし、小説の中で再現することが逆に、現在の作者の「成熟感」を醸し出しているかのよう。

5.ナイロビの蜂 (ジョン・ル・カレ)
ケニア駐在の外交官のもとに届いたのは、最愛の妻が惨殺された知らせ。アフリカのために活動していた妻の遺志を継いで見つけ出したのは、巨大製薬会社による「第三世界への医療補助」の恐るべき実態でした。「スパイ小説の巨匠」ル・カレさんの、年齢を感じさせない新作です。昨年、映画化されました。




【今月のがっかり】
ひとり日和 (青山七恵)



2007/6/1記