りぼんの読書ノート

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八月の御所グラウンド(万城目学)

2024年1月の直木賞受賞作であり、デビュー作の『鴨川ホルモー』以来16年ぶりに京都を舞台とする青春小説なのですが、なんとなく物足りなさを感じました。あまりにも直球すぎて、著者独特の世界観が薄めに感じられてしまったのです。ところどころ破綻を見せるような大胆な構想に基づく作品こそが、著者の魅力だと思っていますのです。「十二月の都大路上下ル(かける)」が並禄されています。

 

「十二月の都大路上下ル」

各県代表の女子高生たちが都大路を走る女子全国高校駅伝は、年末の風物詩となっています。物語の主人公は20位代を目指す中位チームの補欠である1年生ランナーの坂東。しかしレギュラーの上級生の体調不良によって、なんと5区を走ることになってしまったのです。絶望的に方向音痴である坂東は不安を抱えて、必死で走り出すのですが・・。緊張のあまりに「見えなくなっていた」仲間たちの気遣いが見えるようになった坂東は、沿道の応援の中に「見えないはずものまで見てしまった」ようです。でもそんな不思議なことを「ここが京都だから」で納得できるのは、街が有するパワーですね。

 

「八月の御所グラウンド」

こちらも京都で「見えないものが見えてしまう」小説ですが、野球をプレイしてしまうのですから、もはや「ゴールド・オブ・ドリームス」の世界。夏休み直前に彼女に振られて「8月の敗者」となり、地獄の釜のように熱い8月の京都ですごすはめになった大学生の朽木は、教授が異常な熱意を燃やす「たまひで杯」なる草野球大会に出ることになってしまいます。1日おきに5試合を行うリーグ戦なのですが、しょせん草野球ですがら9人そろえるのは至難の業。しかし同じゼミで日本のプロスポーツ史を研究している女性留学生のシャオさんが、見物に来ていた男性たちを誘って試合は成立。「実はその男たちは・・」という物語なのですが、これ以上書いたらネタバレですね。鍵は京都の8月を彩る「五山の送り火」のようです。

 

2024/5