りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

あの子とQ(万城目学)

直木賞受賞作『八月の御所グラウンド』の1~2年前に書かれた作品ですが、こちらの方がずっと好みです。なんせ主人公は吸血鬼の女子高生なんですから。しかし現代の吸血鬼は人間社会に溶け込んでいて、血も吸わず、太陽も十字架もにんにくも平気で、そもそも不老不死ではありません。オールドスタイルの吸血鬼を「松」とするなら、現代の吸血鬼は「梅」レベル。ただし17歳になって「脱・吸血鬼儀式」を済ませるまでは「竹」レベルだとのこと。

 

あと10日で17歳の誕生部を迎える嵐野弓子の前に突然、「Q」というトゲトゲのウニのような化け物が現れます。あと10日間、人間の血を吸うことがないように監視するとのことですが、そもそも弓子はそんなことを考えたこともありません。しかし親友のヨッちゃんの恋愛につきあってダブルデートに出かけた帰り道に事件が起こりました。バスが崖から転落して、友人たちが瀕死の重傷を負ってしまうのです。果たして弓子がとっさに取った行動とは・・。

 

前半の学園ドラマから一転して、後半は破天荒な展開が待っています。一族の生き方に変化をもたらしたものの自らの身体は旧来のままである16世紀に渡来した欧州人の改革派吸血鬼たちや、吸血鬼原理主義者である宿命派や、長崎で吸血鬼にされた日本人第1号の吸血鬼などが、弓子の前に現れてくるのです。はたして弓子は掟を破ってしまったのでしょうか。そして「Q」とは何者なのでしょうか。ブラム・ストーカーの『吸血鬼ドラキュラ』から、ステファニー・メイヤーの『トワイライト』シリーズまで、吸血鬼の物語は数多くありますが、まだまだ新しい展開が可能なのですね。

 

2024/5