りぼんの読書ノート

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2018/7 女王ロアーナ、神秘の炎(ウンベルト・エーコ)

今月の1位に選んだのは、2016年に亡くなったウンベルト・エーコ氏の小説の中で、最後に翻訳出版された作品です。実は最後の小説は『ヌメロ・ゼロ』なのですが、そこでも「記憶こそ私たちの魂」と言い切った著者が、記憶の回復をテーマとして扱った自伝的要素を多く含む作品です。


1.女王ロアーナ、神秘の炎(ウンベルト・エーコ)
失ってしまった個人的な記憶を取り戻すため、少年時代に暮らしていた祖父の家に赴いた主人公は、彼が成長過程をともにした膨大な資料と出会います。戦中戦後のイタリア文化史を彩る、童話、絵本、漫画、小説、新聞、ポスター、レコードなどの莫大な資料は、彼の記憶を回復させるのでしょうか。そして霧の中から浮かび上がってきた、罪の記憶とは・・。著者の個人蔵である膨大な図版がカラーで紹介されている、贅沢な作品です。

 

2.愛の深まり(アリス・マンロー)
ノーベル賞受賞者であるカナダの短編の名手が、円熟期であった1986年に著した短編集です。時系列を行き来しながら、過去の後悔や誤解を冷静に綴って行く独特のスタイルが、全ての短編で貫かれています。母を失った中年女性が、自分の人生がずっと、母の歪んだ価値観に支配されていたことに気付く表題作は見事です。

 

3.我らがパラダイス(林真理子)
下流の宴』で若者たちの貧困を描いた著者が、「人生最大で最後の格差」となる介護問題を描くと、どのようになるのでしょう。「荒唐無稽なラストにもっていくまでに、リアルを積み重ねた」と語る著者の視点は、容赦ありません。「介護では優しい人間が敗者となる」との主人公の言葉は、身につまされます。

 

 

 

2018/7/30