りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2023-06-01から1ヶ月間の記事一覧

2023/6 Best 3

1.女たちのニューヨーク(エリザベス・ギルバート) 1940年の初夏、老朽化した劇場を経営している叔母を頼ってニューヨークにやってきた19歳のヴィヴィアンは、たちまち粋で艶やかなショービジネスの世界の虜となってしまいますが、大女優の逆鱗に触…

当確師 十二歳の革命(真山仁)

プロの選挙参謀として支援した候補者の99%を当選させてきた聖達磨を主人公とする「当確師シリーズ」の第2弾です。今回、聖のもとに持ち込まれた依頼は、ポピュリストの現職総理大臣の岳見を落選させて欲しいというものでした。しかし候補者を当選させる…

チンギス紀 15(北方謙三)

チンギス率いるモンゴル軍が、西方の大国ホラズムに侵攻して半年。南方の古都ブハラを失ったホラズムは、新しい首都のサマルカンドも、包囲戦を耐え抜いていた国境の町オトラルも放棄。彼らの狙いは、モンゴル軍を西方に引き込み、国土全体を利用してモンゴ…

アメリカ最後の実験(宮内悠介)

コンピューターを用いた音楽制作に携わっていた著者による、「音楽格闘SF小説」です。アメリカ西海岸にある架空の難関音楽大学院の受験生である脩を主人公とする物語は、3つの要素から成り立っているようです。ひとつめは即興音楽による対決をベースとす…

サイモン、船に乗る(ジャッキー・ドノヴァン)

1949年に起こった「揚子江事件」のことは知りませんでした。第二次大戦後の中国における国共内戦のさなかに起こった、中国人民解放軍による英国軍艦アメジスト号抑留事件です。揚子江を航行中に突然砲撃を受け、甚大な人的・物的被害を被ったうえに10…

蒼天見ゆ(葉室麟)

著者の「秋月シリーズ」の2作目は幕末から明治初期の物語。西南戦争に先駆けて明治9年に起こった「秋月の乱」についての叙述もありますが、それは本筋ではありません。本書は、明治政府によって仇討が禁止された後の明治13年に起こった「日本最後の仇討…

秋月記(葉室麟)

今年4月に福岡に旅行した際に、秋月城下町を訪れました。福岡藩の支藩として黒田氏の分家によって治められた三方を山に囲まれた城下町は、町全体が国の重要建造物群保存地区に指定されており、極めて印象的なたたずまいを残していました。著者が「秋月藩シ…

ある一族の物語の終わり(ナーダシュ・ペーテル)

1942年にブダべストに生まれたユダヤ人の著者が30歳の時に書き上げた本書は、極めて難解でした。言葉遣いも語られている内容も平易なのに、少年による語りが断片的であちこちに飛びまわるため、物語の全体像がなかなか見えてこないのです。隣家の兄妹…

女たちのニューヨーク(エリザベス・ギルバート)

短編集『巡礼者たち』や、ジュリア・ロバーツ主演で映画化されたエッセイ『食べて、祈って、恋をして』の著者が、古巣のニューヨークを舞台に描いた長編大作です。世界大戦前後のニューヨークのショービジネス界を舞台にして、新しい生き方を目指した女性像が…

銀行狐(池井戸潤)

1998年に『果つる底なき』でデビューした著者が2001年に出版した作品ですから、まだ「半沢直樹シリーズ」をはじめとする痛快な作風には至っていません。銀行を舞台とした犯罪ミステリですが、時代を反映して手口もまだ古典的。それでも著者に特有の…

悪い麗人(堀川アサコ)

『伯爵と成金』に続く「帝都マユズミ探偵研究所シリーズ」の第2作です。伯爵家の次男坊ながら無報酬で探偵を請け負う酔狂な黛望と、彼の助手を務める成金の不良息子にして恋多き美男の牧野心太郎のコンビは、どのような事件に巻き込まれていくのでしょう。 …

オランダ宿の娘(葉室麟)

オランダ商館の医師であったシーボルトが禁制品の日本地図などを持ち出そうとしたことで、シーボルトは国外追放、首謀者とされる天文方の高橋景保は獄死、ほかにも多くの蘭学門人が過酷な処分を受けました、世にいうシーボルト事件です。この事件の真相は明…

イヌはなぜ愛してくれるのか(クライブ・ウィン)

イヌは感情を持って、人を愛してくれるのでしょうか。愛犬家なら迷わず「YES」と答える質問ですが、研究者たちは慎重にならざるを得ません。証明されていない仮説は無意味なのですから。イヌの認知科学・行動科学の専門家であり、大の愛犬家でもある著者…

リアル・シンデレラ(姫野カオルコ)

女性としての幸福を象徴する童話「シンデレラ」の価値観に違和感を抱いた女性ライターが、上司に勧められて、1950年生まれの女性・倉島泉についての取材を始めます。上司によれば、彼女の生き方こそが「シンデレラ」の対極だというのですが・・。 長野県…

彼女の名前は(チョ・ナムジュ)

韓国フェミニズム文学を象徴する大ベストセラーとなった『82年生まれ、キム・ジヨン』の著者が、多くの女性たちのインタビューに基づいて綴った短編集です。著者は本書について「あの本のなかでキム・ジヨンは自分で声をあげない。自分も、社会も、認識し…

黄色い夜(宮内悠介)

著者がジブチやエチオピアなどの北東アフリカ諸国を旅している時に書いた短編がもとになった作品とのことです。舞台となっている架空のE家は、貧しい砂漠地帯の中に屹立するカジノ・タワー。そこは世界中の金持ちやギャンブラーが集まる魔窟であり、上階へ…

ホテル・アルカディア(石川宗生)

ホテル・支配人のひとり娘で絶世の美女と噂の高いプルデンシアが、理由不明のままに敷地のはずれにあるコテージに閉じこもっています。ホテルに宿泊中の7名の芸術家が、彼女を誘い出すべく、コテージ前で自作の物語を順番に語り出します。互いに脈絡があり…

広重ぶるう(梶よう子)

奇人の天才を父に持った北斎の娘・お栄の苦悩を描いた『北斎まんだら』と、明治期に失われつつあった浮世絵を守ろうとした4代目豊国の気概を描いた『ヨイ豊』の著者は、歌川広重なる人物をどのように捉えたのでしょう。 定火消同心の家に生まれた広重は、家…

あさきゆめみし11-13(大和和紀)

7【あさきゆめみし11-13(大和和紀)】 光君の薨去から8年後、光君の面影を継ぐものはついぞ現れません。実子・夕霧は実直に過ぎ、先の帝・冷泉院については口にすることなどできようもありません。新たな物語の主人公となるのは、光君の末子として育…

あさきゆめみし8-10(大和和紀)

『源氏物語』をほぼ忠実にコミック化したシリーズが、いよいよ第34帖「若菜」に突入。これまで紆余曲折はありながらも公私ともに栄光への道を歩み続けてきた光源氏の世界が一気に崩れ落ちていきます。『源氏物語』が今に至るまで素晴らしい評価を得ている…

あさきゆめみし6-7(大和和紀)

『源氏物語』をほぼ忠実にコミック化したシリーズの7巻では、「第1部」が閉じられる第33帖「藤裏葉」までが描かれます。3人の子供たちがそれぞれ、帝、国母、人臣を極めるという古の予言は実現寸前となり、40歳になった光君自身は准太上天皇となって…

あさきゆめみし4-5(大和和紀)

『源氏物語』の世界をほぼ忠実にコミックの世界で再現したシリーズの4巻と5巻は、第12帖「須磨」の後半から第19帖「薄雲」までの物語。晴れて正式な夫婦となった光君と紫に試練が襲い掛かります。。 ひとつはもちろん、自ら須磨へと隠棲して政治の表舞…

あさきゆめみし1-3(大和和紀)

これまで『源氏物語』を通しで読んだことは2回あります。岩波書店の日本古典文学体系(全5巻)の時は、古文の意味や当時の風習を理解するのが精一杯で、どちらかというと注釈を読んでいるようなものでしたが、2020年に完結した角田光代さんによる現代…

ブリット=マリーはここにいた(フレドリック・バックマン)

著者は、スウェーデンで映画化され、トム・ハンクス主演でハリウッドでもリメイクされた『幸せなひとりぼっち』の原作者です。スウェーデン版の映画が非常に良かったので、本書も手に取ってみました。 63歳の主婦であるブリット=マリーは、浮気した夫のケ…

猫と漱石と悪妻(植松三十里)

夏目漱石の妻であった鏡子(旧姓:中根)は、悪妻とか猛妻として知られています。確かに貴族院書記官長を務めた中根重一の娘として鷹揚に育てられた鏡子は、男尊女卑の風潮が強かった当時の基準にはそぐわなかったようです。しかし「悪妻説」は漱石を神格視…