りぼんの読書ノート

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リアル・シンデレラ(姫野カオルコ)

女性としての幸福を象徴する童話「シンデレラ」の価値観に違和感を抱いた女性ライターが、上司に勧められて、1950年生まれの女性・倉島泉についての取材を始めます。上司によれば、彼女の生き方こそが「シンデレラ」の対極だというのですが・・。

 

長野県諏訪市にある旅館の長女として生まれた倉島泉の境遇は、まさにシンデレラストーリーを地でいくものでした。出生にまつわる疑惑もあって、両親に溺愛される妹の陰で、理不尽ともいえる扱いを受け続けていたのです。幼少時のネグレクト、進学や地元名家の御曹司との縁談への反対など、彼女への攻撃が止むことはなかったのです。やがて左前になった旅館業から両親が身を引いた後、女将となって経営センスを発揮するのですが、表舞台に出ることはなくサポート役に徹するばかり。しかも結婚相手が若い女中と恋仲になり、離婚を持ち掛けられてもあっさりと応じ、財産にも執着することはありませんでした。周囲からは不気味とさえ思える行動を取り続けた泉は、やがてひっそりと姿を消すのです。

 

著者は本書について「アレゴリー」だと語っています。幸福や善や美や豊かさを寓意的に現したファンタジーだと言うのです。老母・登代、幼稚園のお姉さん先生、高校時代の友人・玲香、元婚約者の潤一、元夫の亨、旅館の従業員、泉の身上調査を依頼された探偵など、ライターのインタビュー相手となった者たちが見た倉島泉の姿は、彼らの心情を反映しているのでしょう。そしてその誰もが、倉島泉に対して行ったしうちの是非に関わらず、それなりに幸福な人生をおくっているようなのです。自分だけ幸福を掴んだ「シンデレラ」の対極にある倉島泉なる女性は、多分に宗教的な存在のように思えてきます。そういえば著者はクリスチャンでした。

 

2023/6