りぼんの読書ノート

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イヌはなぜ愛してくれるのか(クライブ・ウィン)

イヌは感情を持って、人を愛してくれるのでしょうか。愛犬家なら迷わず「YES」と答える質問ですが、研究者たちは慎重にならざるを得ません。証明されていない仮説は無意味なのですから。イヌの認知科学・行動科学の専門家であり、大の愛犬家でもある著者は、この究極の疑問に答えを見出すべく挑戦を重ねました。パブロフに始まる古典的な行動実験、人間に育てられたオオカミとの比較、「イヌのようなキツネ」を育てる研究施設の訪問、MRIによる脳画像の診断、太古のオオカミをイヌに進化させた遺伝子の探求など、ありとあらゆる手法を駆使して、イヌの愛情のメカミズムを解明した結果はどのようなものだったのでしょう。

 

著者は、おそらく1万4千年ほど前にイヌの遺伝子に小さな変化が起こったと推測しています。愛情遺伝子と呼ばれるその遺伝子はヒトも保有しているそうです。「過剰な社交性を有し、極端に人なつこく、親しみやすく、他者に極端な関心を抱き、知らない人を恐れない」という「ウィリアムズ症候群」患者が有する遺伝子が、イヌの遺伝子と類似しているとのこと。ある意味ショッキングな発見ですが、患者の会はむしろその発見を歓迎しているとのことで何よりです。

 

もちろんイヌとヒトとの深い結びつきはそれだけで成立するものではありません。イヌが家畜化されていく過程で、ヒトは自分たち自身の家畜化も進めたようです。人類が有する社会性は、イヌとの共生の結果獲得された性質なのかもしれません。ヒトはイヌが与えてくれる愛情に恥じないパートナーシップで応え、太古に結んだイヌとの契約に違反することのないようにしたいものです。

 

2023/6