りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

極めて私的な超能力(チャン・ガンミョン)

1975年ソウル生まれで、新聞記者であった経歴も有する著者は、社会派の労働小説から近未来のディストピア小説まで描く多彩な作風で人気を博しているとのこと。本書は、著者のルーツともいえるSF短編集です。

 

「定時に服用してください」

2人の愛情を永続させるという薬を飲むのをやめたとき、何が起こったのでしょう。

 

「アラスカのアイヒマン

他者の感情を移植できる「体験機械」は、人々の結びつきを強化できるのでしょうか。ハンナ・アーレントの著作に想を得た本書は、ナチスの大量殺戮者と家族を失ったユダヤ人の間に共感が生まれ得るのか、という重いテーマを扱っています。ユダヤ人国家がアラスカに誕生したとの設定は『ユダヤ警官同盟マイケル・シェイボン)』の影響とのこと。

 

「極めて私的な超能力」

彼女から二度と会えないと未来予知された男は千里眼の持ち主であり、彼女の姿を遠くから見続けています。そんな彼の前に現れた女性は、キスで特定の記憶を除去する能力の持ち主でした。お洒落なショートショートです。

 

「あなたは灼熱の星に」

スポンサーによって中継されている金星探査船の乗組員たちのドラマはやらせではないのでしょうか。そもそも彼らは同意して参加しているのでしょうか。天才科学者である母親からの暗号を受け取った娘は、母親の救出劇を企むのですが・・。

 

「センサス・コムサス」

脳波解読を利用した世論調査は、政治を変革できるのでしょうか。それを入手した者が世論を操ることになる確率のほうが高そうです。

 

アスタチン

木星土星圏に巨大帝国を作り上げた独裁者の後継者は誰になるのでしょう。彼の遺伝子と記憶を受け継ぐ15人の男女によるサバイバルゲームの結末はどうなるのでしょう。絶対知識と合体した超知能体とか、永遠の生を約束する復活マシンとか、理想の配偶者を設計するなどのガジェットには新規性はないものの、物語としては面白く読めます。

 

「女神を愛するということ」

ゲームの中のNPCがゲームに参加している女神キャラクターと恋に落ちた時、奇跡は起こるのでしょうか。ショートショートの作品のほうに、著者の魅力を感じます。

 

「アルゴル」

覚醒すると災害をもたらす悪役超人たちは、なぜ一人で気楽に生きる道を歩まないのでしょう。古典的な魔法使いの名前でなく、「名前を言えないあの人」の名前を選択した主人公はどのような道を歩んでいくのでしょう。

 

「あなた、その川を渡らないで」

人類の最期のひとりとなった男を自殺させまいとする女性形AIは、「人間性」を獲得したようです。しかし彼女は意外な行動を取るのでした。

 

「データの時代の愛」

ヒューマン・ビッグ・データ解析によって破局を予測されたロマンスは成立するのでしょうか。運命に抗って数十年後に恋を実らせた男女の物語はもちろん、ガルシア=マルケスの『コレラの時代の愛』へのオマージュです。

 

2023/2