りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

光を灯す男たち(エマ・ストーネクス)

まだ灯台守という職業があった1972年の暮れ、英国の南西端コーンウォール沖の岩礁に立つ灯台から、3人の灯台守が忽然と姿を消す事件が発生。灯台は内側から施錠され、食事も手付かずのまま、なぜか2つの掛け時計は同一の時刻で止まっていた事件の謎は解かれることなく、世間から忘れられようとしていました。

 

20年後、ひとりの作家が遺された妻や恋人たちを訪問し、事件の取材を始めます。そして彼女たちは20年間抱えていた秘密を話し出すのです。幼児を海で失った主任灯台守のトラウマ。狭いコミュニティ内で起こった不倫関係。不実な夫に妻が抱いた殺意。新人灯台守が逃れてきた罪・・。世間から隔絶された場所で、いったい何が起こっていたのでしょう。

 

結局のところ真相は「藪の中」なのです。遺族の証言も、当事者の回想も、信用ならざる語りでしかなく、小説中の作家自身もある意味では当事者のひとりでした。それでも未亡人が作家の原稿を海に破り捨てるラストシーンは美しい。結論を急ぐことなく、誤った結論に飛びつかず、謎は謎のままにとどめおき、それぞれが信じる物語を大切にし続けるほうが良いケースというものは、確かに存在するのでしょう。灯台灯台守が象徴しているものについての解答も、読者に委ねられているようです。

 

2023/2