ぞうの耳さんのブログで紹介されていた本です。並木五瓶という、実在の歌舞伎作家の半生をたどりながら、江戸の謎と怪異を語る独自の世界を描いた本です。ミステリー仕立てにはなっていますが、それほどミステリー臭さはありません。
大阪の夜に出没する青い目の歌舞伎装束の一団にも驚いたけれど、彼の代表作とされる「五大力恋緘(ごだいりき・こいのふうじめ)を生み出したエピソードがいいですね。曽根崎新地で実際に起こった五人殺傷事件を題材にした作品が、まさか朝鮮通信史殺害事件や、謎の歌舞伎装束の一団との繋がりがあったと深読みできちゃうとは、虚実皮膜の歌舞伎ワールドの面目躍如です。虚実皮膜といえば、自分の恋を心中事件として永遠に残して欲しいと望む女性の、未来日記のようなエピソードも、物悲しいものでした。
そして物語を描く力が邪神を封じ込めるという「江戸クトゥルー」は、実際に起こった事件を、時代背景を変えたり入り組ませたりしてしまう歌舞伎独特の「世界」の不思議さを、ホラーファンタジーにしちゃうという、とんでもないもの。ちょっと、やりすぎの感もありますが・・。平賀源内、瀬川菊之丞、十返舎一九、鶴屋南などの実在人物が脇役で登場したり、写楽の謎にも迫ったりと、寛政時代の雰囲気に、どっぷり浸れる本でした。
ところで、浅草寺の境内に「並木五瓶の句碑」が立っているそうです。「月花のたわみこころや雪の竹」という句に加え、「なにはづの五瓶、東武に狂言を出して、あまねく貴賤の眼目を驚かし・・・」と、当時の「仕掛け」の派手さを忍ばせる言葉も添えられているとのこと。機会があったら、探してみようと思います。
2007/6