りぼんの読書ノート

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怪獣保護協会(ジョン・スコルジー)

SF名作へのオマージュ作品を書かせたら、著者の右に出る人はいないでしょう。ハインライン『宇宙の戦士』への『老人と宇宙(そら)』シリーズ、や、フィリップ・K・ディックアンドロイドは電気羊の夢を見るか?』への『アンドロイドの夢の羊』、TVドラマ「スター・トレック」への『レッドスーツ』などの作品は、著者独自のオリジナリティを含んでおり、単独でも優れた作品に仕上がっていました。コロナ禍の最中であった2021年に書かれた本書は、なんと日本映画「ゴジラ」へのオマージュです。

 

パンデミックによる不況期に会社を懐古されたジェイミーは、偶然再会した昔の知り合いの紹介で「大型動物の権利を守るNGO組織」に雇われました。さまざまなジャンルの科学者が揃うチームの中で「重い物を持ち上げる」役割を果たすよう言われたジェイミーは、「フィールド」に連れて行かれて驚きます。なんとそこな怪獣が跋扈するパラレルワールドの地球でした。どうやら並行宇宙の壁を破るのは核爆発エネルギーであり、はじまりはビキニ環礁での核実験の際に「ゴジラ」が私たちの時空にやってきたことだったようです。

 

驚きながらもジェイミーは、「怪獣保護協会」の一員として巨大怪獣の生態を研究し、同種の怪獣は滅多にいないために絶滅の危機に瀕していると怪獣たちを保護する任務に取り掛かります。要はパンダの生殖活動を手助けするようなもの。しかし相手が怪獣では何をするにも命がけであり、科学者たちを守りながらアシストする仕事は極めて重要だったのです。しかし同期の仲間たちとも親しくなり、なんとか仕事をこなせるようになった時に大事件が発生。NGO組織への資金提供者として地球からやってきた億万長者が、怪獣を悪用しようとして時空の壁を破ってしまったのです。ジェイミーは仲間たちとともに怪獣と地球を救おうとするのですが・・。

 

ところで二乗三乗の法則によって怪獣の存在は不可能とされているのですが、著者はユニークな回答を準備しています。確かにこの説によれば同時に怪獣が放射能線を吐くことも可能なのでしょう。ハリウッド版「ゴジラ」は駄作と言い切っている著者は、いくつもあるフィールド基地にオリジナル「ゴジラ」撮影に関わった日本人関係者たちの名前を付けています。また現地で活躍する巨大飛行船「ショウビジン号」は、「モスラ」でザ・ピーナッツが演じた小美人に由来するとのこと。楽しい作品でした。

 

2024/5