りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

老神介護(劉慈欣 リウ・ツーシン)

今や中国を代表するのみならず、世界的なSF作品となった「三体シリーズ3部作」の著者による短編集であり、同時発売された『流浪地球』の姉妹編にあたります。タイトル作はケン・リュウ編の中国SFアンソロジー『折りたたみ北京』に「神様の介護係」として収録されています。

 

「老神介護」

銀河に覇を誇った宇宙種族も文明の最晩年を迎えようとしていました。20億人を乗せた大船団で地球に現れた宇宙人は、老後の世話を依頼するために地球文明を育んだを造物主であると名乗るのです。「孝」を大切にする中国らしいSF作品です。前回は呼び飛ばしてしまいましたが、地球は彼らが創造した6番目の文明であり、他は全て狂暴で残忍で侵略欲が強い文明を築いてしまったとのこと。やがて地球を侵略に来る異星人に備えよとのメッセージは、いかにも『三体』の著者らしいラストです。

 

「扶養人類」

「老神介護」の続編にあたります。地球を去った神々の予言より早く、地球は兄文明の侵略を受けてしまいます。彼らは70億の地球人に居留地としてオーストラリアを与え、現在の人類社会の最底辺の生活レベルを保証するというのですが・・。『三体 第2部 暗黒森林』に登場するようなプロットですが、本篇では富の不均衡をテーマとして、地球人同士の混乱ぶりが描かれます。

 

白亜紀往時」

恐竜と蟻が協力して白亜紀に近代文明を築き上げていたという物語。思想や科学理論を発達させた恐竜族と、繊細な工学・医学を発達させた蟻族の関係は、欧米とアジアの関係のようです。しかしついに両者は衝突し、どちらの文明も滅び去ってしまうのでした。

 

「彼女の眼を連れて」

宇宙空間から地球に思いを馳せる人たちのために開発された「眼」を連れて休暇に出かけることは、地上スタッフの社会貢献活動とされていました。しかしその日主人公が携えていった「眼」の持ち主である女性は、宇宙空間にいるのではないというのです。彼女h地球最深部で制御を失った探査船に閉じ込められているというのです。

 

「地球大砲」

南極を中国の裏庭とするために掘られた地球貫通トンネルは、地球をどう変えてしまったのでしょうか。地球環境に大災厄をもたらしたトンネルは廃止されることなく、宇宙に人類を撃ちだす「砲身」として用いられることになったのですが・・。「彼女の眼を連れて」の女性の「その後」も語られます。彼女は人口冬眠をしていた主人公の孫娘だったのですね。

 

2023/8