りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

るん(笑)酉島伝法

スピリチュアルと科学が逆転した「ユートピア・ニッポン」の笑撃は凄まじい。しかしそこは恐怖の世界でしかありません。気の流れに免疫力、蛇憑きに生霊信仰、、星座や干支や血液型や水晶玉、血縁より心縁、思考盗聴、そして龍の存在。普通の主婦である真弓さんを中心にして、夫、母、甥を主役とする3つの物語は、近未来なのか、並行宇宙なのか。コロナワクチンを巡る迷言を聞くと、笑ってばかりはいられません。

 

「三十八度通り」

結婚式場に勤める土屋が発熱して解熱剤を飲もうとすると、妻から「免疫力の気持ち、なぜ考えてあげない」と責められてしまいます。「科学的」という言葉が引き起こすのは怒りか失笑。スピリチュアルが大手を振って信じられている世界の結婚披露宴は、運気を上昇させるイベントのオンパレード。熱が下がらず苦しむ土屋は「平熱は38度に引き上げられた」と告げられるのですが・・。

「千羽びらき」

病気の原因は薬。病を治すものは祈り。「やまいだれ」は不吉だから「病院」は「丙院」。医療保険は7割自己負担に挙げられていますが、施霊院なら3割負担のまま。真弓の母かかった病は「癌」ではなく「蟠り」。いやそれも不吉な呼び名なので「るん(笑)」という病名、いや丙名に変えられてしまいました。患者に求められているのは、快癒祈願の千羽鶴の中に記された祈願者にお礼の電話をかけまくるという、重労働だったのです。そうそう、死は「次元上昇」であり、怖れるべきものではないそうです。

 

「猫の舌と宇宙耳」

スピリチュアルな世界ではネコは忌み嫌われるようです。ネコを可愛いと思ってしまうのは、ネコの奴隷となる第一歩なのです。ラングドシャ(猫の舌)」の名を持つ菓子がまだ存在しているのは、フランス語の意味が浸透していないせいなのでしょう。真弓の甥の真が、昔の地図にない近くの山で発見した可愛い新生物は、まさかネコなのでしょうか。

 

2023/8