りぼんの読書ノート

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ぼくらが漁師だったころ(チゴズィエ・オビオマ)

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舞台は1990年代のナイジェリア。ビアフラ内戦の記憶もまだ消え去っておらず、人種間対立も解消されず、何度も軍事クーデターに見舞われた国であることが、本書のテーマの底流に流れています。 

 

主人公は南西部の町アクレに住む9歳の少年ベン。中央銀行に勤める父親と、厳格な母親に育てられた5人兄弟の4番目。傍から見ても裕福で幸福な家庭に育ったものの、父親が治安の悪い北部の町に転勤させられてから様子が変わってきます。 

 

兄たちに連れられて、危険だから近づかないように言われていた川に魚釣りに行くようになったことなど可愛いものですが、川のほとりで出会った狂人アブルに不吉な予言を告げられてから、全てが変わってしまいました。その予言とは「長男前は漁師の手にかかって死ぬだろう」と言うものであり、兄弟たちは魚釣りをする自分たちを「漁師」と称していたのです。はたして忌まわしい兄弟殺しは起こってしまうのでしょうか。 

 

冒頭に「狂人が家に押し入り我々の聖なる血を冒涜する」との詩が紹介されています。本書における狂人アブルとは、トリックスターのような愛すべき存在ではなく、完全なよそ者で不吉な存在だったのですね。かつて神として崇拝されていた川が、付近の住民がキリスト教に改宗したことによって忌まわしい場所とされたことと併せて考えると、本書の狂人とは西洋文明のことなのかもしれません。 

 

西洋文明に希望を見出そうとしていた合理的な父親から、ベンジャミンという西洋的な名前をつけられた少年によって語られる物語は残酷です。ラストで幼い妹と弟を、大陸間を渡るをシラサギに例えるくだりにわずかな希望が感じられるのですが。 

 

2019/12