りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2010-10-01から1ヶ月間の記事一覧

忍法八犬伝(山田風太郎)

「八犬士」が活躍した時代から150年後、家康の謀臣・本田正信は、里見家の家宝を盗み出すよう服部半蔵に命じます。狙いはもちろん、里見家のお取り潰し。里見家の凡庸な当主・忠義は、家宝の八珠を将軍家にお見せする約束をしていたのです。 半蔵配下の8…

スターバト・マーテル(篠田節子)

2作の中篇からなる単行本。表題作の「スターバト・マーテル」とは、ベートーベンが死の直前に作曲した聖歌であり、「静かな哀しみ」との意味があるそうです。 乳癌を契機に「死」を身近に感じるようになった彩子は、夫に勧められて通うようになった会員制プ…

カリフォルニアの炎(ドン・ウィンズロウ)

カリフォルニアからメキシコ、中南米を舞台にして、麻薬ビジネスとの戦いを圧倒的な筆致で描いた最新作『犬の力』に惹かれて読み始めた作家ですが、「ニール・ケアリー」のシリーズはおもしろかったものの「ちょっと違う」感じがありました。この作品は、両…

火星年代記(レイ・ブラッドベリ)

人類初の火星への探検隊は、1人も帰還しませんでした。続く2度の探検隊も帰還しなかったのですが、それでも人類は火星へと押し寄せます。やがて火星には地球人の町が次々と建設され、火星人は姿を消してしまいます。彼らは、地球人のもたらしたウィルスによ…

星と輝き花と咲き(松井今朝子)

明治20年、東京に突如あらわれるや、初舞台からメインを食うほどの喝采で迎えられ、瞬く間にスターとなった竹本綾之助が元祖アイドルならば、学生たちの「どうする連」は元祖おっかけですね。明治期の学生たちの間で「娘義太夫ブーム」があったということ…

葛野盛衰記(森谷明子)

「葛野(かどの)」とは現在の京都市西側一帯を指す古名であり、桓武帝の平安京は山背国の葛野郡と愛宕郡にまたがって建設されました。平安京の西を流れる桂川は、古くは葛野川と呼ばれていたそうです。 本書は、葛野の地霊が都を呼び寄せた桓武帝の時代と、…

シェル・コレクター(アンソニー・ドーア)

14歳の少女から初老の男性までの多様な主人公を操って、世界の様々な場所を舞台に描かれた8つの短編の主題は「救済」のようです。簡潔な文体に習って、各作品を点描的に紹介してみましょう。でも、こんな紹介で伝わるでしょうか? 貝を集める人 ケニア沖…

人形つかい(ロバート・A.ハインライン)

1951年に書かれた「侵略SF」の古典的傑作です。アイオワに着陸した未確認飛行物体の真相解明におもむいた秘密捜査官サムとメアリは、何も変わったものを見出すことは出来ませんでした。それはすでに、住民が宇宙からの寄生生物にとりつかれ、彼らの思…

シャーロック・ホームズ最後の挨拶(コナン・ドイル)

シリーズ8冊目は、ホームズが最後に手掛けた事件で終わっています。この後もシリーズは続くのですが、それ以前の事件の紹介にすぎません。ホームズは第一次大戦のはるか前に引退して、養蜂と読書に明け暮れる生活を送っていたのですね。もっともその後のイ…

エデン(近藤史恵)

『サクリファイス』の続編にあたります。白石誓こと「チカ」が、尊敬するストイックな先輩・石尾の「究極のアシスト」によって、自転車ロードレースの本場である欧州のチームに加わってから3年後。スペインからフランスのチームへと移籍し、念願だったツー…

だから、ひとりだけって言ったのに(クレール・カスティヨン)

「母と娘のあいだには、甘くも美しくもない秘密がある」 19編の短編には、さまざまな年代の母と娘が登場します。母が娘を語る物語も、娘が母を語る物語もあります。でもどの作品にも共通しているのは、互いに苦しみ傷つけあいながらも絶対に切ることの出来…

食堂かたつむり(小川糸)

綺麗すぎて生活を感じない不倫小説『喋々喃々』は好みではありませんでしたが、こちらは、むしろファンタジー的な物語としてすっきり読めました。 母に反発して上京し、恋人とともに料理店を開くためにトルコ料理店でのバイトに励んでいたリンゴこと倫子は、…

船に乗れ(藤谷治)

音楽一家に生まれてチェロを学ぶ津島サトルの高校生活を描いた青春音楽小説ですが、彼は音楽の道に進むことなく普通の会社員となったことは冒頭で語られてしまいます。またその過程で、後悔に苛まれるような行為をしてしまったことも明かされています。つま…

修道士カドフェル9 死者の身代金(エリス・ピーターズ)

このシリーズ、しばらく間をおいていましたが久々に借りてきました。少々飽きがきていたのです。 スティーブン王の支配で安定するかにみえたイングランドは、モード妃の巻き返しで混沌としていきます。1141年には、モード派との戦いに敗れたスティーブン…

国芳一門浮世絵草紙4 浮世袋(河治和香)

浮世絵師・歌川国芳の娘、登鯉(とり)を主人公とした連作シリーズ第4弾。登鯉の娘時代は過ぎようとしています。芸者や花魁となった幼馴染たちの境遇が変化していく中、登鯉の出生の秘密も明かされ、彼女の運命も転機を迎えるのですが、黒船が来航して時代…

奪い尽くされ、焼き尽くされ(ウェルズ・タワー)

出版社の紹介文に「アメリカン・ドリームなき21世紀のアメリカ」とありました。アメリカ社会のダークサイドを描いた文学など、いまさら珍しくもないのですが、この短編集はちょっと突き抜けてしまった感があります。 夢を失った悲しみどころか、はじめから…

ブレイズメス1990(海堂尊)

およそ20年前の、東城大学付属病院の改革期を描いた『バチスタ』シリーズの前史。こちらも独自のシリーズとなっていて『ブラックペアン1988』に続く2冊目です。 後に病院長となる高階は「小天狗」と呼ばれる少壮の講師で、「外科手術の大衆化」を理想…

天啓を受けた者ども(マルコス・アギニス)

前作『マラーノの武勲』は、スペイン統治下の南米で猛威をふるった異端審問の実体を「被告」であったユダヤ教徒の立場から描いた作品でしたが、本書は現代社会において「天国の到来を声高に告げながら地獄を生み出している天啓を受けた者ども」の所業を暴き…

七人の敵がいる(加納朋子)

育児と仕事を何とか両立してきた陽子ですが、息子の小学校入学とともにはじまったPTA、学童父母怪会、地域子供会などの活動に悲鳴をあげてしまいます。めちゃくちゃ楽しい、ワーキング・マザーのPTA奮戦記ですが、楽しく書かれてはいても、かなりの部…

第81Q戦争(コードウェイナー・スミス)

荻原規子さんが『ファンタジーのDNA』で紹介していた本ですが、これはSF。宮崎駿さんの『ナウシカ』の世界観は、この本を参考にした部分があったのですね。「汚染された大地と水を長い時間をかけて浄化するために植林され、それまでの間は有毒物質を排…

緑金書房午睡譚(篠田真由美)

「月の島」にある古書店「緑金書房」へようこそ。でもそれは、もしあなたがたどり着けたら・・のこと。そこは「こちら」と「あちら」の境界にある場所なのですから。 高校休学中の比奈子は、大学教授の父親が研究休暇でイギリスに行くことになって、亡き母の…

天地明察(冲方丁)

暦とは、天体の運行に基づく時間の流れを体系付け「年・月・週・日・時」として当てはめたものですが、農事や神事など人々の営みを司るものとして、旧くから権力者の支配の道具だったのですね。日本では、唐時代に作成された「大衍暦」を輸入した「宣明暦」…

平ら山を越えて(テリー・ビッスン)

河出書房新社「奇想コレクション」の最新刊に、『ふたりジャネット』の作者が再び登場。いちおう「SF作家」に分類されていますが、他を寄せ付けない奇想ぶりは健在です。 平ら山を越えて:山越えをするトラック野郎が拾ったヒッチハイクの少年は、かつて家…

奇想と微笑 太宰治傑作選(森見登美彦編)

『【新釈】走れメロス』で、メロスをパンツ番長にしてしまった森見登美彦さんの編んだ傑作選です。太宰治といえば「諧謔と自虐」の印象が深いのですが、この短編集に収められた作品にもその特徴はいかんなく発揮されています。ただ「諧謔と自虐」の裏にある…

交渉人・籠城(五十嵐貴久)

あれっ、「交渉人・遠野麻衣子」は前作で終了じゃなかったの?・・と思ったら、『交渉人 遠野麻衣子・最後の事件』は文庫化に際して『交渉人・爆弾魔』と改題され、シリーズとして続くことになったようです。 喫茶店の店主が客を監禁して篭城する事件が発生…

2010/9 メイスン&ディクスン(トマス・ピンチョン)

宮部みゆきさんの新作『小暮写眞館』は惚れ惚れするほど巧みな展開で、完成度も高く期待は裏切られませんでしたが、それを上回る感動を与えてくれたのが、歴史に題材をとって迫力ある読み物に仕上げた大作2つ。 コミカルな語り口の中から奴隷制への批判が滲…