りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2020-01-01から1年間の記事一覧

2020 My Best Books

2020年に読んだ本は268作品。コロナ禍で家に籠っていた時間も長かったのですが、2度の引っ越しがあった前年よりも減ってしまいました。むしろ実生活が多忙なほうが読書にも気合が入るのかもしれません。今年も最後に1年を振り返っての「ベスト本」…

2020/12 Best 3

1.銀河鉄道の父(門井慶喜) 国民的詩人とも評される宮沢賢治の父親には「賢治の進学や創作に反対した人物」という印象を持っていました。しかし徹底した調査に基づいて父親目線で描かれた本書は、そんな人物像を鮮やかに覆してくれました。彼は浮世離れし…

花咲舞が黙ってない(池井戸潤)

『不祥事』や『銀行総務特命』を原作としたTVドラマ「花咲舞が黙ってない」は、主演の杏さんの魅力を引き出してくれた素晴らしい作品でした。本書は、著者には珍しくドラマを意識しながら書かれた『不祥事』の続編です。なんと別の大人気シリーズの主要キ…

ゴーストハント2 人形の檻(小野不由美)

心霊現象の調査事務所長・渋谷一也と、なぜか彼の助手を務めることになってしまった普通の女子高生・谷山麻衣に舞い込んできた依頼は、古く瀟洒な洋館で頻発するポルターガイスト現象でした。なぜかまたもや合流することになった霊能者一団(巫女・坊主・神…

ゴーストハント1 旧校舎怪談(小野不由美)

1989年から92年にかけて書かれた初期の代表作「悪霊シリーズ」が、2010年にリライトされて蘇ったのが、この「ゴーストハントシリーズ」。さらにその文庫化が現在進行中であり、なんと30年に渡って生き延びている作品なのです。 語り手はごく普通…

オン・ザ・ロード(J・ケルアック)

1960年代に花開いたヒッピー文化の先駆けとして生まれていたのが、主に1950年代に出版されたビートニク文学です。本書はその時代を代表して、ビートジェネレーションにとってのバイブルとも言われた作品です。 「ここではないどこかへ行く」との強い…

不思議の国の少女たち(ショーニン・マグワイア)

「不思議の国」や「ナルニア国」や「オズ」のような異世界に行って戻ってきた少年少女たちは、無事に社会復帰できるのでしょうか。意思に反して現実世界に戻らされてしまった者たちに、現実と折り合うすべを教える学園は必要なのでしょう。今日もまたその学…

昭和少女探偵團(彩藤アザミ)

和洋折衷文化が花開いた大正時代も終わり、きな臭さが漂い始めた昭和6年。女学校に通う花村茜の友となったのは、謎めいた才女の夏我目潮と天才で変人の丸山環でした。3人は、女学校内の些細な事件の謎を解いたことをきっかけにして、少女探偵団を結成する…

黒武御神火御殿 三島屋変調百物語六之続(宮部みゆき)

これまで百物語の聞き手を務めてきたおちかは、内なる心の闇を晴らして嫁に行く形で卒業。後を継いだ三島屋の次男・富次郎は、「語って語り捨て、聞いて聞き捨て」という聞き手の役割をうまくこなすことができるのでしょうか。 「泣きぼくろ」 富次郎の最初…

蝶たちの時代(フリア・アルバレス)

1930年から1961年までの長期に渡ってドミニカ共和国の大統領を務めた、独裁者トルヒーリョの悪政については『チボの狂宴(バルガス=リョサ)』や『オスカー・ワオの短く凄まじい人生(ジュノ・ディアス)』でも描かれました。本書は、反トルヒーリ…

ヴェネツィアの出版人(ハビエル・アスペイティア)

「イルカに錨」のマークで知られ、ルネサンス後期にヴェネツイアから多くの名著を生み出した「アルド印刷所」のことを知ったのは、記憶違いかもしれませんが、ウンベルト・エーコの『フーコーの振り子』だったでしょうか。四つ折り版や八つ折り版という「持…

エコエコアザラク(岩井志麻子)

「黒木ミサ」という女性が唱える「エコエコアザラク」という呪文・・なんとなく聞いたことがある話です。もともとは1975年から79年まで連載された古賀新一氏にによるホラー漫画であり、その後も何度か映画化・ドラマ化されているので、聞いたことがあ…

渦(大島真寿美)

本書の副題となっている「妹背山婦女庭訓」とは江戸中期の浄瑠璃です。これまで知りませんでしたが、本書yを読みながら調べてみたらブットビました。まるで現代のファンタジーアクションのようなのです。白い牝鹿の血によって超人的な力を有し、盲いた天皇を…

ストーナー(ジョン・ウィリアムズ)

「これはただ、ひとりの男が大学に進んで教師になる物語にすぎない。しかし、これほど魅力にあふれた作品は誰も読んだことがないだろう」という、トム・ハンクスの感想が全てを言い表しています。しかも名翻訳家であった東江一紀氏が生涯最後の仕事として病…

潮騒はるか(葉室麟)

『風かおる』に登場した福岡黒田藩の4人の男女が、舞台を長崎に移して再登場。前作で養父を失った菜摘は、西洋医学伝習所のポンペのもとで蘭学を学ぶ夫・亮を追って長崎に移り住んで鍼灸医を開業。弟の誠之助も、彼を慕う男勝の千沙とともに長崎で蘭学や医…

言葉の守り人(ホルヘ・ミゲル・ココム・ペッチ)

マヤ語で書かれ、マヤ神話の呪術的世界観に根差し、実在のマヤの森を舞台にした本書は、言葉をめぐる物語であると同時に、少年の成長譚にもなっています。「マヤ文明ファンタジー」と定義される作品ですが、自然崇拝・動物崇拝・言葉が持つ呪術的力など、日…

老ピノッキオ、ヴェネツィアに帰る(ロバート・クーヴァー)

「ピノキオ」というとディズニーアニメを思い起こす人が多いでしょうが、カルロ・コロディによる原作は、もっと残酷で荒唐無稽な要素に満ちた物語。そんなアメリカ的なイメージを覆すには、原作を紹介するだけでも良いのでしょうが、著者はさらに毒を盛り込…

秋(アリ・スミス)

15世紀イタリアのルネサンス画家と母を失ったばかりの21世紀のイギリス少女の物語が交差する不思議な小説『両方になる』の著者が、ブリグジットを決めた国民投票の直後に著した本書のテーマは「対話」であるようです。 といっても実験的な手法を模索し続…

発火点 (C・J・ボックス)

ワイオミングの猟区管理官、ジョー・ピケットを主人公とするシリーズも、もう第12作になりました。 第1作『沈黙の森』では幼い少女であった長女シェリダンも大学生になっています。前作『鷹の王』はジョーの友人である鷹匠ネイトの過去と彼に迫る危機を中…

銀河鉄道の父(門井慶喜)

宮沢賢治の父・政次郎というと「賢治の進学や創作に反対した人物」という印象が強いのですが、徹底して父親目線で描かれた本書は、そんな人物像を鮮やかに覆してくれました。明治維新で没落した花巻の呉服屋・宮沢家を質屋として再興した賢治の祖父・喜助の…

グッドバイ(朝井まかて)

幕末にイギリス商人のオルトやグラバーと渡り合って日本茶葉輸出の先駆者となり、坂本龍馬の海援隊や岩崎弥太郎らを支援したことでも知られる、長崎の女傑・大浦慶の一代記です。 もともと長崎の油商であった大浦屋は、長崎大火による大損害や、それに続く父…

あきない世傳 金と銀7 碧流篇(高田郁)

大坂天満の呉服商「五鈴屋」の6代目店主であった夫の友蔵の死後、「1年限り」の7代目店主となった幸は、亡父との約束であった江戸に念願の店を出しました。大阪と江戸の相違に戸惑う幸たち主従が、店是である「買うての幸い、売っての幸せ」の基本を揺る…

太陽と乙女(森見登美彦)

京都大学大学院に在籍していた2003年に『太陽の塔』で鮮烈なデビューを飾って以来、京都を舞台にした不思議な世界を書き綴ってきた著者の「決定版エッセイ集」です。何が決定版かというと、デビューから17年分のすべてのエッセイが、この文庫本1冊に…

スフィンクス(堀田善衞)

著者にしては珍しい国際謀略小説ですが、アジア・アフリカ諸国の連帯を望んだ著者の思想も反映されている作品です。 アルジェリア戦争を終結に導くエヴィアン協定の協議が行われている最中の1962年2月、ユネスコ職員としてカイロに駐在している菊池節子…

緋の河(桜木紫乃)

道東で逞しく生き抜く女性たちを描き続る釧路出身の著者が、同郷のカルーセル麻紀をモデルとして描いた、「この世にないオリジナル」を目指した少年の物語。あくまでフィクションであり、登場人物の名前は変えられ、本人の語らないエピソードを補われている…

孤児列車(クリスティナ・ベイカー・クライン)

1854年から1929年までの75年もの間、ニューヨークからアメリカ中西部へと身よりのない子どもたちを運ぶ「孤児列車」という慈善事業が行われていたそうです。これによって運ばれた孤児は20万人にも及び、新しい家庭に温かく迎えられた子供もいた…

2020/11 Best 3

1.あの本は読まれているか(ラーラ・プレスコット) 冷戦時代にCIAが、ソ連では出版禁止となっていた『ドクトル・ジバゴ』をソ連国内に流布させようとするプロパガンダ作戦を行っていたとは驚きました。公表された僅かな事実を膨らまして描かれた本書で…

展望塔のラプンツェル(宇佐美まこと)

児童虐待による悲劇が連日のように報道されているという悲しい現実があります。本書はそんな重いテーマを扱って、「本の雑誌が選ぶ2019年度ベスト本第1位」に選出されています。 東京に隣接して開発が進む北部に対して、労働者や多国籍の人々が居住する…

覚悟の人(佐藤雅美)

群馬県の富岡を訪れた際に、富岡製糸場の生みの親として小栗上野介が賞賛されていました。慶応4年(1868年)に官軍に殺害された小栗は、明治政府によって設立された製糸場には直接関係していないのですが、幕末にフランスからの技術導入によって横須賀…

あの本は読まれているか(ラーラ・プレスコット)

まだ11月ですが、今年のベスト本の第一候補です。タイトルの「あの本」とは、『ドクトル・ジバゴ』のこと。著者のボリス・パステルナークにノーベル文学賞をもたらした名作は1957年にイタリアで、次いで世界18カ国で出版されたものの、ソ連では19…