りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2023-04-01から1ヶ月間の記事一覧

2023/4 Best 3

1.反乱者(ジーナ・アポストル) フィリピン人の作家兼翻訳者マグサリンが、アメリカ人の映画監督キアラから通訳を依頼されるところから始まる物語は、米比戦争をテーマとした重層的なメタフィクションでした。中心に据えられているのは、19世紀末の米西…

ちよぼ(諸田玲子)

加賀百万石の礎を築いたのが前田利家と正妻まつであることは、大河ドラマ化されたこともあって、多くの人に知られています。しかし第3代藩主となった利常の生母である側室「千代保(ちよぼ)」の功績も大きいようです。朝倉氏家臣であった上木氏の家に生ま…

果樹園の守り手(コーマック・マッカーシー)

映画化もされた『すべての美しい馬』に始まる「国境3部作」や、近年のディストピア小説で名高い著者が、32歳の時に執筆したデビュー作です。アメリカ西部やメキシコを舞台とする作品が多い印象がありますが、本書の舞台は著者の故郷であるテネシー州東南…

ルパンの絆(横関大)

『ルパンの娘』シリーズの最終第5巻では、Lの一族のひとり娘・華の一家に最大の試練が訪れます。警察官の夫・和馬は、ホテルのバーで張り込み中に意識を失い、目を覚ますとスイートルームにいて浴室には美女の死体。何者かに嵌められたわけですが、容疑を晴…

ルパンの星(横関大)

『ルパンの娘』シリーズの第4巻では物語はいよいよ佳境に・・と思いきや、探偵一族ホームズの娘の美雲は所轄でくすぶっていました。前巻でルパンの一族の息子で凄腕ハッカーの渉との交際を認められたものの、同棲を初めて1年後にあっさり別れてしまい、失…

保護犬と暮らすということ(天然生活)

保護犬を家族に迎え入れた人々の「こんなにも幸せをもたらしてくれる犬たちのために、自分たちにできることはないか」という思いが生んだ一冊だとのこと。15人の筆者が、今や愛犬となった「元保護犬と楽しむ暮らし」を綴ってくれていますが、それだけでは…

地形で見る江戸・東京発展史(鈴木浩三)

地理学・地質学的な側面から街の成り立ちを探ることをテーマとすることが多いTV番組「ブラタモリ」で、江戸・東京は何度も取り上げられています。本書は、東京都水道局中央支社長である著者が、その分野に専門的に迫った解説書です。 ページをめくるとまず…

逃亡テレメトリー(マーサ・ウェルズ)

統制モジュールによる命令の束縛から逃れ、宇宙を放浪している人型警備ロボット「弊機」の宇宙遍歴物語の第3弾。弊機に自由を与えてくれた恩人メンサー博士は、宇宙世界の中で比較的民主的なプリザベーション連合の指導者です。普段は博士を警備している弊…

わたし、定時で帰ります。ライジング(朱野帰子)

シリーズ第1作では会社に定時帰宅を認めさせ、第2作では体育会系ブラック企業である取引先の体質まで変えてしまった東山結衣は、マネージャーに昇格。しかし彼女の前に現れた新たな敵は、なんと部下たちだったのです。 残業手当のために不要な残業をする「…

民王 シベリアの陰謀(池井戸潤)

内閣総理大臣の武藤泰山と、大学生のバカ息子・翔の人格が突然入れ替わってしまったドタバタコメディ『民王』の第2弾。経済小説の印象が強い著者ですが、「半沢直樹シリーズ」でも明らかなように、経済と政治は切り離せるものではありません。現代日本の政…

寿宴(南條竹則)

本来は英文学者であった著者ですが、中国文学や中華料理に造詣が深いことはよく知られています。1993年に日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞した『酒仙』は酒飲みの桃源郷を描いた作品でしたし、その賞金で『満漢全席』まで開いてしまった食通なの…

ホームズの娘(横関大)

困難を乗り越えて事実婚を実現し愛娘・杏を授かった、泥棒一族のひとり娘・華と警察一族のひとり息子・和馬の生活に問題発生。ひとつは、警視庁で和馬の部下となった探偵一族のお嬢である「ホームズの娘」美雲が、 杏の兄で天才ハッカーの渉と運命の恋に落ち…

ルパンの帰還(横関大)

アルセーヌ・ルパンになぞらえて「Lの一族」と呼ばれている三雲家のひとり娘・華と、警察官一家の桜庭家のひとり息子・和馬との許されない恋愛を描いた『ルパンの娘』の続編です。あれから5年、いまだ事実婚状態ながら娘・杏を授かって順風満帆な2人の関…

ダ・ヴィンチの愛人(藤本ひとみ)

レオナルド・ダ・ヴィンチの生涯には謎が多く、とりわけ14歳から30歳までフィレンツェで過ごした青年期については本人もほとんど書き遺していないとのこと。本書はその謎に挑んだ作品です。しかしレオナルドを女性として描くとは思いませんでした。確か…

会社を綴る人(朱野帰子)

『わたし、定時で帰ります。』シリーズのヒットで、「女性のお仕事小説」作家と見られるようになった著者ですが、本書の主人公はアラサー男子の紙谷。自他ともに認めるポンコツで、唯一の実績は中学1年生の時に区の読書感想文コンクールで佳作を受賞したこ…

満漢全席(南條竹則)

著者の分身である南蝶氏こと「でふ氏」は、名もなく貧しく生きてゆくのをモットーとする英文学者でした。しかし君子は豹変するのです。未だ果たさぬ夢である満漢全席を食する野望を実現させるために、せっせと原稿用紙の枡目をうめて「日本空想文学大賞」に…

女たち三百人の裏切りの書(古川日出男)

平安時代後期、院政が始まり武士階級が台頭しつつある時代、100年以上も前に亡くなった紫式部の怨霊が蘇ります。病の床に伏した麗景殿こと紫苑の君に憑りついた物の怪が、今に伝わる「宇治十帖」は改竄されたものだと恨みを述べるのです。では、光源氏が…

円 劉慈欣短篇集(リウ・ツーシン)

中国SF界に燦然と輝く「三体シリーズ」の著者による短編集には、1999年のデビュー作から『三体』の一部をベースとして2014年に書かれた表題作まで、著者15年間の歴史が詰まっています。ほかにも異星文明の侵略、環境問題、気候変動、三村での貧…

反乱者(ジーナ・アポストル)

フィリピン人作家による米比戦争をテーマとしたメタフィクションは、重層的な作品です。書く者と書かれる者、支配者と被支配者、アメリカとフィリピンの視点という関係が交錯して重なっていき、その中心にはフィリピン史における大虐殺事件があるのです。。 …

イクサガミ 天(今村翔吾)

2022年1月に『塞王の楯』で直木賞を受賞した今村翔吾さんは、現在もっとも波に乗っている時代小説の書き手のひとりでしょう。そんな著者が書き下ろした「時代劇デスゲーム」ですから、おもしろくないわけはありません。もっとも本書は3部作の第1部で…

ネットワーク・エフェクト(マーサ・ウェルズ)

統制モジュールによる命令の束縛から逃れ、宇宙を放浪している人型警備ロボット「弊機」の宇宙遍歴物語『マーダーボット・ダイアリー』の第2弾。かつて大量殺人を犯したとされる弊機に自由を与えてくれた恩人メンサー博士の依頼で、弊機は惑星調査隊の警備…

ふたご(藤崎彩織)

「SEKAI NO OWARI」でピアノとライブ演出を担うSaoriが綴った小説であり、2018年上期の直木賞候補作となったことで注目されました。選考委員の林真理子さんによる「みずみずしい感性は見られたものの、まだ小説には昇華していない」という選評が、プロの…

物語ウクライナの歴史(黒川祐次)

2022年2月のロシア軍侵攻以来、ウクライナの情勢から目が離せません。これを機会にウクライナの歴史を学び直そうとした人も多いようで、本書もいきなり図書館の貸出申込が長いリストとなり、1年待ちになってしまいました。 2014年にロシアがクリミ…

テルマエ・ロマエ 1-6(ヤマザキマリ)

映画「テルマエ・ロマエ」は2作品とも見ているので、おおよその内容は知っていました。ハドリアヌス帝時代の古代ローマから現代日本にタイムスリップしてきた浴場設計技師ルシウスが、「平たい顔族」の風呂文化をローマの浴場建設に取り入れていく物語。「…