りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

ネットワーク・エフェクト(マーサ・ウェルズ)

統制モジュールによる命令の束縛から逃れ、宇宙を放浪している人型警備ロボット「弊機」の宇宙遍歴物語『マーダーボット・ダイアリー』の第2弾。かつて大量殺人を犯したとされる弊機に自由を与えてくれた恩人メンサー博士の依頼で、弊機は惑星調査隊の警備を引き受けます。そこにはメンサー博士の娘アメナがメンバーとして参加しているのです。

 

しかし安全なはずの宙域で調査隊の乗艦が攻撃を受けてしまいました。アメナとともに敵艦に乗り移った弊機は、その艦が旧来の友人である操縦ボットARTであることを知って驚きます。あろうことかARTは何者かによって削除されてしまったというのです。巨大な知性体であるARTが、簡単に敗北してしまうことなどあるのでしょうか。そして弊機はアメナを守り抜くことができるのでしょうか。

 

今回が遭遇した相手は、超古代に滅亡した異星文明の遺跡によって汚染され、エイリアンが遺した集合精神によって制御された入植者たちです。その汚染は人類のみならず、体組織の一部が有機体である弊機やARTにも感染する万能のゾンビウィルスのよう。今後、生存している非人類とのコンタクトもあるのかもしれません。

 

また、決死の覚悟で敵地に乗り込んだ弊機がART内部に残したコピーは、あるいは弊機の別人格となって存在し続けるのかもしれません。ロマンチストのアメナは、コピーのことを「弊機とATRの子ども」と理解したようですが、それもあながち見当はずれな推測ではないのかもしれませんね。人間の子どもは、DNAという有機コードの組み合わせによって生まれるものなのですから。弊機もARTも性別を持たず、強いて言えばどちらも女性的なようですが、性別なんて人間ですらクリアしている問題ですからね。

 

ともあれ、人間と関わることを嫌い、体内のメモリに忍ばせた連続ドラマを延々と見続けることだけを趣味とする弊機にも、何らかの感情が生まれて来たのかもしれません。ひょっとしてこのシリーズには、弊機の成長物語という側面もあるのでしょうか。続編の中編『逃亡テレメトリー』も読んでみようと思います。

 

2023/4