りぼんの読書ノート

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ふたご(藤崎彩織)

SEKAI NO OWARI」でピアノとライブ演出を担うSaoriが綴った小説であり、2018年上期の直木賞候補作となったことで注目されました。選考委員の林真理子さんによる「みずみずしい感性は見られたものの、まだ小説には昇華していない」という選評が、プロの小説家による評価を代表しているのでしょう。しかしその感性こそが、本書の全てです。「一生に一度しか書けない小説」という宮下奈都さんの文庫版解説が、読み手の感想を代弁してくれているのではないかと思います。が、

 

ピアノだけを友としていた孤独な中学生・夏子が、1学年上の人一倍感受性の強い少年・月島と出会うところから物語は始まります。夏子には「彼女をふたごのようだと思っている」と言いながら、別の女性と恋愛する月島の感覚を理解できません。しかし月島に惹かれている夏子は、メチャメチャに振り回され続けながらも、彼の傍から離れられないのです。高校を中退した月島がアメリカ留学中に精神を病んで2週間で帰国した時も、そのままADHDと診断されて精神科に入院した時も、そして唐突にバンドを始めた彼からメンバーに誘われた時も。

 

バンドのデビューが決まりかけた時に夏子は思うのです。「もし私たちが本当にふたごであったなら、こんな苦しい思いをすることはなかった」と。しかし「もし私たちが本当にふたごであったなら、こんな日は決して来なかったんだろう」と。彼らのモデルを知っている読者なら、「大丈夫、あなたたちは必ず成功する」と声をかけたくなってしまう場面です。

 

著者の第2作はまだ世に出ていません。宮下奈都さんが思うように「藤崎彩織という人は、たぶんまた一生に一度しか書けない小説を書く」ことがあるのでしょうか。一生に一度の奇跡の作品『放浪記』を書いた林芙美子が、その後も優れた作品を書き続けたように。

 

2023/4