りぼんの読書ノート

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よろこびの歌(宮下奈都)

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「あたしのことを書いてくれた!」とまで思わせてくれたスコーレNo.4から2年。宮下さんの久々の単行本は、それまでの作品では物語の背景に流れていた「音楽」を全面に出した作品でした。

声楽を志していたものの音大付属高校の受験に失敗して、新設の女子高に通う御木元玲とやはり挫折感を抱え6人の女子高生が、合唱というひとつの目的に向かう青春群像劇・・と言ってしまえばそれまでの話なのですが、宮下さんの描く「少女たちの心の揺れ」が抜群に素晴らしく、共感を呼ぶのです。

「よろこびの歌(御木元玲)」 マラソン最下位の玲を応援する歌声に、止まっていた心が動きます
カレーうどん(原千夏)」 貧しさを僻まない素直な少女にも、憧れも悩みもあるんです
「No.1(中溝早希)」 肩を壊したソフトボールの元エースは「16にして余生」と呟きます
「サンダーロード(牧野史香)」 霊感少女がピアノの上に見たのは、玲のおじいさんでした
「バームクーヘン(里中佳子)」 恋に悩む美術部員は、ひとりひとりが違う形と気付きます
「夏なんだな(佐々木ひかり)」 姉コンの委員長は「春」が去るのを怖れているんです

彼女らは、最終章の千年メダルで、「自分たちの歌をどんな歌にしたいのか」というそれぞれの思いにたどり着きます。
「私たちを出そうとしなくても、私たちが歌うのは私たちの歌」
「自分らしさを出そうとすると、人よりも前に出ようとする心が出ちゃう」
「聴衆を喜ばせるのはすごく大事」
「他の人には意味がなくても、私には意味がある」
「背中を押してくれてありがとう」
「自分で自分の背中を押したんだよ」
「未来の自分に聴かせるつもりで歌おう」
いいなぁ・・こんな雰囲気。

少女たちは悟りを開くわけでもないし、物語が教訓的なわけでもない。でも悩んだことに出口が見えた気がして、ちょっとだけ明るい気分になって、またそれぞれ、何かに向かって動き出す。環境も、悩む対象も、動き出す方向も違うけど、自分の高校時代もこんな繰り返しだったと思い出させてもらいました。

「6人のキャラクターに自分の『分身』を見つけたような気持ちを抱き、彼女たちと語りあいたくなった方も多いのではないでしょうか」と、出版社もコメントしています。小説の登場人物にファンレターを出すと、宮下さんが返事を書いてくれるんだそうです。

2010/1