
気候変動、資源問題、パンデミック、紛争や戦乱・・。かけがえのない地球が損なわれつつある現在、人類と地球の未来はどこにあるのでしょう。日本SF作家クラブが編んだ書き下ろしアンソロジーのテーマは、大上段に振りかぶった「地球」でした。
「Rose Malade,Perle Malade」新城カズマ
漢の武帝の治世下で、皇帝の一族である淮南王は治世のために天文物理を極めようとしていました。その行為が武帝の逆鱗に触れることになるとも気付かないままに・・。
「独り歩く」粕谷知世
コロナ禍で閑散とした街をそぞろ歩く語り手の脳裏に浮かんでくるのは、太古に滅び去った古代生物たちの幻影でした。果たして人類は観察者たりえる存在なのでしょうか。
「ワタリガラスの墓標」関元聡
温暖化した南極大陸に外来生物を持ち込むことは違法なのですが、既に崩れた生態系の揺り戻しは、そこでこそ可能化のかもしれません。「生命はいつだって生きることに容赦がない」のです。
「フラワーガール北極へ行く」琴柱遙
環境が激変した未来で、ヒトのDNAが組み入れられているシロクマと、内部に人間のオペレータを宿したクジラが、壮絶な結婚式をおこないます。
「夏睡」笹原千波
高気温の夏季を睡って乗りきるように遺伝子改変された種族は、既に滅び去ったようです。生き残った最後のひとりは、都市で保護されているのですが・・。
「クレオータ 時間軸上に拡張された保存則」津久井五月
ニュートンが生きていた400年前の地球は寒冷化が進んでいたそうです。時を越えた気温コントロール実験は、成功するのでしょうか。
「テラリフォーミング」八島游舷
孤絶した村で48体のAIに育てられたひとりの少女が、荒れ果てた地球環境を巻き戻すテラリフォーミングの鍵を握ることになるのですが・・。
「一万年後のお楽しみ」柴田勝家
仮想世界のシミュレーションが作り上げた1万年後の氷河期世界のために、「未来への贈り物」を準備する「シムヒューチャー」会員たちの努力は実を結ぶのでしょうか。因果の働きは、常にままならないものなのですが。
「誕生日(アニヴェルセル)」櫻木みわ
世界各地で突如、鏡やガラスに浮かび上がってきた地球のホログラムには、ところどころに黒い個所がありました。そうやらそれは人類が過去に破壊活動を行ってきた場所のようなのです。それは地球が行っている治癒の過程なのか。それとも報復の前兆なのか。日本に住む90歳の私とフランスの9歳の少年の交流は抒情的です。
「アネクメーネ」長谷川京
地磁気変動の影響で人間が方向感覚を喪失してしまった世界で、遺伝子間の相互作用ネットワークの解析についての特許を持つ主人公を拉致したのは、巨大IT企業でした。地球規模の磁気と生命体が持つ体内磁気は関連し合っているのかもしれません。
「地球をめぐる祖母の回想、あるいは遺言」上田早夕里
テラフォーミング途上の火星において、入植第一世代の祖母と火星生まれの孫との会話によって、地球が精神の自由を喪失した経緯が明かされていきます。地球を蝕んできた格差・棄民・監視・情報統制・精神制御が、火星にも及ぼうとしている時に、彼女たちは自由を守り続けることができるのでしょうか。
「持ち出し許可」小川一水
宇宙人を名乗るオオカミに「コウギョクカエルの絶滅を宣言してほしい」と依頼された少年たちは、宇宙人の欺瞞に気付きます。しかし次に絶滅を迎えるのは、人類なのかもしれません。
「鮭はどこへ消えた?」吉上亮
乱獲によって絶滅したはずの鮭の調理を依頼された特殊料理人の物語。彼らは軍事カルトの頭領である美食家を出し抜くことができるのでしょうか。
「竜は災いに棲みつく」春暮康一
地球を破滅的な災害から守るために生まれた膜状生命体「竜」は、マグマの噴出原、台風を生み出す熱帯海洋、地震源となる海溝の隙間、地球に接近する隕石軌道に潜んでいるのです。
「ソイルメイカーは歩みを止めない。」伊野隆之
背中に共生樹を植えられた巨大生命体の役割は、地球を再生すること。それに乗りこんでいるのは遺伝子改変されたシロテナガザルたち。しかし地下に退避した人類が、地上に復帰する日は訪れるのでしょうか。
「砂を渡る男」矢野アロウ
砂を用いた蓄電システムをめぐる利権と民族間の確執が、サハラ砂漠を舞台として燃え上がります。境界面を支配する魔術は、最先端の超拡張現実システムなのでしょうか。
「安息日の主」塩崎ツトム
未来世界の身分制度は、強欲な資本主義社会を否定したロハス思想に基づいて固定されました。しかし過去には美徳であったロハス思想は、とんでもないお題目に変質していたのです。ブラックの度合いが超絶的に濃い、ブラックユーモア作品です。
「壺中天」日高トモキチ
「クラインの壺」に基づく地球内部の空洞は、時空を超えた超人たちの棲み家と化していました。「十分に発達した科学は魔法と見分けがつかない」のでしょう。
「我が谷は紅なりき」林譲治
巨大隕石の直撃によって地球は壊滅。その前に火星に植民した者たちは身体を機械化することで生き延びています。長い年月を経て、火星の者たちは急増する人口を支えるため、禁断の領域となっている地球への帰還を企てますが、そこは想像以上の魔境になっていたのです。
「バルトアンデルスの音楽」空木春宵
地殻深部で響いているサウンドは、それを聞いた人々を、ある秩序に基づいた楽器に変質させてしまうようです。混沌を求めるロックンローラーは、世界に向けて演奏を始めるのですが・・。
「キング《博物館惑星》余話」菅浩江
地球の生活に疲れた主人公アダムは、美の殿堂である博物館惑星を訪れて、ロボット・ボランティア・ガイドのキングと出逢います。実はキングは、地球を離れらない難病の老人によって遠隔操作されていたのですが・・。
「独我地理学」円城塔
大地は球体でも単純平面でもなく、巻紙状の平面だそうです。そこで壊滅的な破壊力を有するのは、矛盾する認識を世界規模で顕現させる「観測兵器」だとのこと。2人の少年はその兵器の発動を止めることができたのでしょうか。
2026/10