りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

リラの花咲くけものみち(藤岡陽子)

北農大学獣医学類の新入生、岸本聡里の成長物語です。彼女には、幼い頃に母を亡くし、継母から育児放棄されて不登校生だった過去がありました。祖母のチドリに引き取られ、唯一の心の支えであった愛犬パールをはじめとするペットたちと暮らした思い出から獣医師を目指したのですが、人間関係でも学業面でも苦労は絶えません。

 

人付き合いの距離感がわからないために、気難しいルームメイトとうまく付き合えず、遅まきながらの初恋をした先輩への告白もできません。その一方で、ペットの命を救うつもりで志した獣医師の仕事が、厳しい命の選別でもあることに気付かされてしまいます。自分にこの仕事は無理と思い知らされて一度は東京へ逃げ帰ってしまったものの、祖母や友人たちに励まされて復帰。そして牛や馬などの大型経済動物たちの背後には、飼い主たちの人生があることに気付かされるのでした。

 

気弱で俯きがちだった聡里が、迷って悩んで立ち止まりながらも、北の大地で生命の意味に気付いていく過程で力強さを身につけていく物語は感動的でした。ついでながら、山田杏奈さん主演のNHKドラマもよくできていました。原作で省略されてしまった聡里の周囲の人々の物語も丁寧に描かれていましたし、終盤のクライマックスである仔牛の出産の場面も迫力があったのです。

2026/11

猫君2 りんねの輪(畠中恵)

20年生きて妖となった新米猫又たちの学び舎である猫宿が江戸城内にあるのは、伝説的な猫又たちの英雄・猫君と神君家康との取り決めによるもの。これは歴代将軍と老中たちだけに伝えられる秘密です。しかしそれから200年ほど経った徳川家斉の時代に、その約束を破ろうとする動きが起こりました。

 

冒頭でいきなり、猫宿の長が侍に殺害されてしまいます。長は輪廻転生能力を持っているものの、子猫として生まれ変わって猫又になれるのは20年後。それまで猫又たちは勢力を保っていられるのでしょうか。第1巻でお馴染みになった猫宿の新入生たちの活躍が始まります。まずは長が生まれ変わった子猫を見つけること。次いで戦いに備えて、それぞれが将軍から賜った首玉のパワーを使いこなすこと。しかしそれが難題でした。火を吐く子猫や、人語を解する鸚鵡や、糸を吐く土蜘蛛や、瞬間移動を可能にする影や、得体の知れない武器に変化する首玉は、持ち主の指示も聞かずに暴走してしまうのです。そこに現れた、家康の時代から生き続けているという天海僧正は敵なのか、味方なのか。

 

みかんとぽん太をはじめとする新米猫又たちは2年生になっていて、その学びと戦いを通じて成長していく過程は、まるでホグワーツの世界。もっともこちらの方は、かなりオトボケも入っています。続編もありそうですね。楽しい物語でした。

2026/11

 

星の海を駆ける(ジョナサン・ストラーン/編)

大宇宙を舞台とするスペースオペラは、昔からずっとSFの一大ジャンルを占めてきましたが、その内容には大きく変化しているとのこと。草創期には西部劇の舞台を宇宙に移したような冒険小説があり、次いで宇宙を支配する銀河帝国のような設定も好まれていましたが、現在では世界の暗い側面や、植民地主義の反省、ジェンダー問題などを反映して、文明批評、思考実験、アイデンティティの問題が多く扱われているとのこと。もちろん、それらのテーマとロマンティックなスペースオペラの相性も悪くはないのです。

 

「禅と字宙船修理技術」トバイアス・S.バッケル

機械に意識をダウンロードさせている「私」が、宇宙戦艦の指令特権を持つCEOを救助。見返りに持ち株を譲渡するというのですが、そのCEOは肉体至上主義者の鼻もちならないやつでした。約束は守りつつ、セキュリティをかいくぐって、見返りだけを手にする方法などあるのでしょうか。

 

「課外活動」ユーン・ハ・リー

敵国で消息不明になったスパイ艦の調査に赴いた工作員は、古くからの友人が二重スパイであったことに気付くのですが・・。コミカルでエロティックな語り口も楽しめる作品です。

 

「あなたが王だと思っていたすべての色」アーカディ・マーティーン

幼馴染の少女が女帝のクローンであり、女帝と決闘して地位を争う運命にあると知った時、もちろん主人公は幼馴染を助ける約束をするのです。クローンであることのアイデンティティ不安が作品の核になっています。

 

「ベラドンナの夜」アレステア・レナルズ

遠宇宙に飛び出して20万年かけて銀河周遊を完了させた人類が、集結して再会を祝うイベントの夜。主人公の女性は自分を意識しているらしい他部族の男の行動から、哀しい真実を知ってしまうのでした。

 

「金属は暗闇の血のごとく」T.キングフィッシャー

辺境の惑星で世捨て人の科学者に作られた2台の無垢なロボットが、死後を心配した科学者の指示で小惑星帯に向かったところ、恐るべき存在に捉えられてしまいます。彼らは窮地から逃れることができるのでしょうか。

 

「時空の一時的困惑」チャーリー・ジェーン・アンダーズ

太陽系規模の巨大生命体「お広様」の支配を逃れた男女が、銀河の中心の超巨大ブラックホールへと「お広様」を導きます。

 

「包囊」アリエット・ド・ボダール」

全身を包むアバターである「包囊」を着用しすぎて自己を失う中毒は、被支配階級に多いのです。その仕組みを変えようとする姉妹の物語の著者は、フランス人とベトナム人の混血の生まれです。植民地主義の本質に迫るテーマが含まれている作品でした。

 

「モリガン、光へと落ちる」セス・ディキンソン

太陽系連邦からの独立を目指す星間コロニー連邦の戦艦がダメージを受けて、太陽に落下しつつある中で、女性パイロットは恩人で親友の上司と悲しい約束を交わします。戦時における人間性を問う作品です。

 

「背教者たち」ラヴィ・ティドハー」

惑星カデシュで異端の教えを説く人物の抹殺を命じられた「裁定人」が、なぜ母星の聖宮殿の地下で尋問されているのでしょう。背景にはユダヤ神話があるのですが、厳格な一神教に未来はあるのでしょうか。

 

「善き異端者」ベッキー・チェンバーズ

意図的にウィルスに感染することによって自己を失い、宇宙ナビゲーターとなることが運命づけられている種族にも、異端者は生まれるのです。

 

「クイーンズスロートへの旅路」アーニャ・ジョアンナ・デニーロ「

かつて仕えていた帝国が滅んで月に隠棲しているトランスジェンダーの女性が、現支配者を狂信する「清浄軍」に襲撃されます。一団を軽々と追い払った女性は、ひとりだけ彼らに染まっていない「少年」が気になって帝国の中枢へと誘うのですが、その少年こそが、後に偉大な女帝となる運命を担っていたのです。

 

「審判」アン・レッキー

宮廷を辞して氷原で孤独に暮らしていた主人公が、支配者からの呼び出しを受けて、反乱の種を滅ぼすように命じられます。しかし反乱者は意外な存在であり、主人公もまた重大な選択を迫られることになるのです。

 

「惑星執着者」サム・J.ミラー

ワームホール網で人類が外宇宙に広がった時代。ワームホールゲートが破壊されて故郷へ帰る術を失っていた主人公が、微かな手がかりを得て故郷への道を探っていくのですが・・。

 

「スキーズブラズニルの最後の旅」カリン・ティドベック

人工的な外殻を纏う生体宇宙船で、生体部分の成長によって外殻が破損するトラブルが増大。船を売り払おうとする船長に反抗して、機関士と修理工は生体に新しい殻を提供してあげようとするのです。

2026/11

赤ずきんの森の少女たち(白鷺あおい)

グリム童話をベースとする正統派の女子学園ファンタジーです。現代神戸の高校生のかりんが見つけた祖母の遺品は、赤ずきん伝説の残る森と女子寄宿学校の物語を描いたドイツ語の本でした。その中でかりんの祖母は重要な役割を果たしていたのです。そして物語は過去に飛びます。

 

19世紀末、黒い森からドレスデンの寄宿学校にやってきたロッテを出向えたのは、6人のルームメイトたちでした。ロッテを含めて7人もの少女たちが活躍する物語の幕開けなのですが、気軽に読み進めるには7人という人数は少し多い。まあ、ロッテとともに探偵役を演じることになるドルトヒェンとマーレの3人を軸に読み進めていけばいいでしょう。

 

物語の核になるのは、かつてロッテの祖母が赤ずきんであったことと深く係わる人狼伝説、女学校で噂されている未来を予知した謎の文書と大量のマイセン磁器の存在。後にオーストリア皇太子妃となる伯爵令嬢。神戸とドレスデンのからくり人形の相似。日本人留学生とドイツ人女性との悲恋。そしてイギリスで噂になっている時間旅行小説。さらに物語の背景にあるのは、第一次世界大戦へと向かう歴史的な動きです。かなり盛りだくさんなのですが、最後には人狼伝説の真偽とタイムファンタジーに着地します。

 

残念なことに「ドレスデンが滅亡する」との予言は第二次世界大戦の空爆で実現してしまったようなのですが、ドレスデンと神戸を結び付けて未来に希望を託するキーワードは「復活」です。

2026/11

2026/10 Best 3

1.うまれたての星 大島真寿美

1963年に集英社から創刊された「マーガレット」と「別冊マーガレット」の編集部を舞台として、少女マンガ草創期の活気あふれる様子を描いた作品です。ほとんど万能の名物編集長。右往左往しながら成長してく編集者たち。そして漫画家も読者も若い女性なのに男性中心の編集部で、悔しい思いをしながら未来に夢を託す編集部の女性たち。ラストに登場する「絵が下手でやがて物書きになる小学生」は、著者のことですね。

 

2.バベル 上下(R・F・クァン)

を用いた言葉の魔法によって世界支配に乗り出した19世紀前半のイギリス。そのパワーの源は、通称バベルと呼ばれるオクスフォード王立翻訳研究所にありました。本書はそこに中国系留学生として入学したロビンが、アヘン戦争を起こそうとするイギリス帝国とバベルの欺瞞に挑戦する物語です。「ハリー・ポッターシリーズ」が正義のアカデミアファンタジーであるなら、本書はダークアカデミア小説と言えるでしょう。当時のオックスフォードにおける有色人種差別や、女性差別の実態も生々しく描かれます。

 

3.どうせ死ぬなら、最後にミーアヤム(ブリアン・クリスナ)

孤独な生活の末に鬱を病んだアレンは、37歳の誕生日に死ぬことを決意。しかし「食後に服用すること」という睡眠薬の注意書きを見て、どうせなら大好きな屋台麺を食べてから死のうと思って出かけたことからジェットコースターアクションが始まります。大半の登場人物が貧民街で暮らす人たちであるのに、全編を通して楽観主義に満ち溢れている本書は、現代日本では望むべくもない、成長期にある社会でしか生まれない類の作品なのでしょう。

 

【次点】

・猫の刻参り 三島屋変調百物語拾之続(宮部みゆき)

 

【その他今月読んだ本】

・戦争獣戦争 上(山田正紀)

・戦争獣戦争 下(山田正紀)

・イザベラ・バード、日出ずる国で妖怪に出会う(白鷺あおい)

・永田町小町バトル(西條奈加)

・皇后の碧(阿部智里)

・死んでいる元カノとの旅(ローリー・ムーア)

・わたしの少女マンガ史(小長井信昌)

・君を恋ふらん 源氏物語アンソロジー(末岡善己/編)

・プロジェクト・ダークネス(冲方丁)

・地球壮年期の終わり(林譲治)

・羊式型人間模擬機(犬怪寅日子)

・地球へのSF(日本SF作家クラブ/編 )

 

2026/10/30

地球へのSF(日本SF作家クラブ/編)

気候変動、資源問題、パンデミック、紛争や戦乱・・。かけがえのない地球が損なわれつつある現在、人類と地球の未来はどこにあるのでしょう。日本SF作家クラブが編んだ書き下ろしアンソロジーのテーマは、大上段に振りかぶった「地球」でした。

 

「Rose Malade,Perle Malade」新城カズマ

漢の武帝の治世下で、皇帝の一族である淮南王は治世のために天文物理を極めようとしていました。その行為が武帝の逆鱗に触れることになるとも気付かないままに・・。

 

「独り歩く」粕谷知世

コロナ禍で閑散とした街をそぞろ歩く語り手の脳裏に浮かんでくるのは、太古に滅び去った古代生物たちの幻影でした。果たして人類は観察者たりえる存在なのでしょうか。

 

「ワタリガラスの墓標」関元聡

温暖化した南極大陸に外来生物を持ち込むことは違法なのですが、既に崩れた生態系の揺り戻しは、そこでこそ可能化のかもしれません。「生命はいつだって生きることに容赦がない」のです。

 

「フラワーガール北極へ行く」琴柱遙

環境が激変した未来で、ヒトのDNAが組み入れられているシロクマと、内部に人間のオペレータを宿したクジラが、壮絶な結婚式をおこないます。

 

「夏睡」笹原千波

高気温の夏季を睡って乗りきるように遺伝子改変された種族は、既に滅び去ったようです。生き残った最後のひとりは、都市で保護されているのですが・・。

 

「クレオータ 時間軸上に拡張された保存則」津久井五月

ニュートンが生きていた400年前の地球は寒冷化が進んでいたそうです。時を越えた気温コントロール実験は、成功するのでしょうか。

 

「テラリフォーミング」八島游舷

孤絶した村で48体のAIに育てられたひとりの少女が、荒れ果てた地球環境を巻き戻すテラリフォーミングの鍵を握ることになるのですが・・。

 

「一万年後のお楽しみ」柴田勝家

仮想世界のシミュレーションが作り上げた1万年後の氷河期世界のために、「未来への贈り物」を準備する「シムヒューチャー」会員たちの努力は実を結ぶのでしょうか。因果の働きは、常にままならないものなのですが。

 

「誕生日(アニヴェルセル)」櫻木みわ

世界各地で突如、鏡やガラスに浮かび上がってきた地球のホログラムには、ところどころに黒い個所がありました。そうやらそれは人類が過去に破壊活動を行ってきた場所のようなのです。それは地球が行っている治癒の過程なのか。それとも報復の前兆なのか。日本に住む90歳の私とフランスの9歳の少年の交流は抒情的です。

 

「アネクメーネ」長谷川京

地磁気変動の影響で人間が方向感覚を喪失してしまった世界で、遺伝子間の相互作用ネットワークの解析についての特許を持つ主人公を拉致したのは、巨大IT企業でした。地球規模の磁気と生命体が持つ体内磁気は関連し合っているのかもしれません。

 

「地球をめぐる祖母の回想、あるいは遺言」上田早夕里

テラフォーミング途上の火星において、入植第一世代の祖母と火星生まれの孫との会話によって、地球が精神の自由を喪失した経緯が明かされていきます。地球を蝕んできた格差・棄民・監視・情報統制・精神制御が、火星にも及ぼうとしている時に、彼女たちは自由を守り続けることができるのでしょうか。

 

「持ち出し許可」小川一水

宇宙人を名乗るオオカミに「コウギョクカエルの絶滅を宣言してほしい」と依頼された少年たちは、宇宙人の欺瞞に気付きます。しかし次に絶滅を迎えるのは、人類なのかもしれません。

 

「鮭はどこへ消えた?」吉上亮

乱獲によって絶滅したはずの鮭の調理を依頼された特殊料理人の物語。彼らは軍事カルトの頭領である美食家を出し抜くことができるのでしょうか。

 

「竜は災いに棲みつく」春暮康一

地球を破滅的な災害から守るために生まれた膜状生命体「竜」は、マグマの噴出原、台風を生み出す熱帯海洋、地震源となる海溝の隙間、地球に接近する隕石軌道に潜んでいるのです。

 

「ソイルメイカーは歩みを止めない。」伊野隆之

背中に共生樹を植えられた巨大生命体の役割は、地球を再生すること。それに乗りこんでいるのは遺伝子改変されたシロテナガザルたち。しかし地下に退避した人類が、地上に復帰する日は訪れるのでしょうか。

 

「砂を渡る男」矢野アロウ

砂を用いた蓄電システムをめぐる利権と民族間の確執が、サハラ砂漠を舞台として燃え上がります。境界面を支配する魔術は、最先端の超拡張現実システムなのでしょうか。

 

「安息日の主」塩崎ツトム

未来世界の身分制度は、強欲な資本主義社会を否定したロハス思想に基づいて固定されました。しかし過去には美徳であったロハス思想は、とんでもないお題目に変質していたのです。ブラックの度合いが超絶的に濃い、ブラックユーモア作品です。

 

「壺中天」日高トモキチ

「クラインの壺」に基づく地球内部の空洞は、時空を超えた超人たちの棲み家と化していました。「十分に発達した科学は魔法と見分けがつかない」のでしょう。

 

「我が谷は紅なりき」林譲治

巨大隕石の直撃によって地球は壊滅。その前に火星に植民した者たちは身体を機械化することで生き延びています。長い年月を経て、火星の者たちは急増する人口を支えるため、禁断の領域となっている地球への帰還を企てますが、そこは想像以上の魔境になっていたのです。

 

「バルトアンデルスの音楽」空木春宵

地殻深部で響いているサウンドは、それを聞いた人々を、ある秩序に基づいた楽器に変質させてしまうようです。混沌を求めるロックンローラーは、世界に向けて演奏を始めるのですが・・。

 

「キング《博物館惑星》余話」菅浩江

地球の生活に疲れた主人公アダムは、美の殿堂である博物館惑星を訪れて、ロボット・ボランティア・ガイドのキングと出逢います。実はキングは、地球を離れらない難病の老人によって遠隔操作されていたのですが・・。

 

「独我地理学」円城塔

大地は球体でも単純平面でもなく、巻紙状の平面だそうです。そこで壊滅的な破壊力を有するのは、矛盾する認識を世界規模で顕現させる「観測兵器」だとのこと。2人の少年はその兵器の発動を止めることができたのでしょうか。

 

2026/10

羊式型人間模擬機(犬怪寅日子)

2024年の第12回ハヤカワSFコンテスト大賞受賞作ですが、巻末の選評を読むと、本作についての評価は相当割れていたようです。結局は最高点を付けた選考委員の熱量が優って受賞に至ったとのこと。150ページ程度の短い作品ですが、実は私も読み通すのがキツかった。

 

語り手の「わたくし」は、ある不思議な一族に使え続けている少女型のロボットです。その一族の男性は死の間際に「御羊」に変身し、「わたくし」の役割は、その羊肉を捌いて遺族に食べさせること。ついに当代の大旦那様が御羊になった日、「わたくし」は決まり切った手順を踏んで儀式の準備を進めるのですが、実は人間である一族の者たちは「御羊」に対して複雑な思いを抱いていたのです。しかし彼らはなぜ、何代にも渡って血族の肉を食み続けているのでしょう。

 

もちろん解答などありません。ロボットである「わたくし」が、生命体である一族の者たちの生きざまや、人工物にすぎない自分自身の存在意義らしきものについて、長々と語り続けるだけ。その過程で「わたくし」は「私」へと自意識を高めつつあるようなのですが、次の当主の指示によって眠りに就くとまた「わたくし」に戻っていくようなのです。こういう作品が「刺さる」読者もいるということなのでしょう。

 

2026/10