りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2018-11-01から1ヶ月間の記事一覧

2018/11 ギリシア人の物語3(塩野七生)

今月はシリーズ完結作を2つ読みました。ひとつは塩野七生さんが2015年から書き綴った『ギリシア人の物語』。著者はこれで「歴史エッセイ」の執筆を終えると語っていますので、これは『ルネサンスの女たち』以来50年に渡る長いシリーズの最終巻と位置…

ギリシア人の物語3(塩野七生)

3年に渡って書き継がれた「三部作」の最終巻にあたります。著者は本書をもって、50年に渡って書き続けてきた「歴史エッセイ」の執筆を終えるとのこと。締めくくりにふさわしいヒーローは、アレクサンドロスです。 『第1巻』でペルシア帝国に勝利して輝か…

破滅の王(上田早夕里)

短編集『夢みる葦笛』に収録されている「上海フランス租界祁斉路三二〇号」は、日中協力体制のもとに設立された上海自然科学研究所の研究員の苦悩を描いた作品でしたが、本書の舞台である1943年には、研究員の苦悩は悪夢的に変容していまいました。 上海…

長く高い壁(浅田次郎)

「蒼穹の昴シリーズ」で独自の視点から近代中国史を描き続けている著者ですが、「戦争ミステリ」という趣向は珍しいのではないでしょうか。 1938年秋。従軍作家として北京に派遣されていた流行探偵作家の小柳逸馬に、不思議な要請が下ります。満州と中国…

花のお江戸で粗茶一服(松村栄子)

「粗茶一服シリーズ」がついに完結。第1作の『雨にもまけず粗茶一服』が2004年で、第2作の『風にもまけず粗茶一服』が2010年の出版ですから、6~7年周期でじっくりと書き継がれたシリーズといえるでしょう。 主人公は、弓・剣・茶の「三道」を伝…

ここにいる(王聡威)

台湾を代表する文芸誌の編集長も務める作家が、2013年に起こった「大阪市母子餓死事件」をモチーフにして創造した作品です。電気もガスも止められたマンションの一室で28歳の女性と3歳の息子が餓死した事件は、無縁社会を象徴する事件として台湾でも…

クリフトン年代記7.永遠に残るは(ジェフリー・アーチャー)

2011年から2016年に渡って書き継がれた、著者畢生の大作がついに完了。第一次大戦直後の1920年に生まれたハリー・クリフトンが、サッチャー政権終了後の1992年に亡くなるまでの一代記は、同時に現代イギリスの政治社会史ともなっています。 …

レディ・ヴィクトリア 3(篠田真由美

19世紀末、ヴィクトリア朝のロンドンを舞台にして、天真爛漫なレディ・シーモアと、国際色豊かな使用人たちが活躍する「歴史ミステリ」の第3弾は、日本と関わる物語でした。 明治維新から17年後。明治政府の鹿鳴館外交が欧州列強政府から失笑をかってい…

辺境の老騎士 3(支援BIS)

中世ヨーロッパのような架空の世界を舞台とする「グルメエピックファンタジー」の第3弾では、旅の仲間であった女騎士ドリアテッサの辺境競武会での奮戦と、かつてバルドが敬愛したアイドラ姫の忘れ形見でパルザム王となったジュールラントによって王都に迎…

辺境の老騎士 2(支援BIS)

中世ヨーロッパのような架空の世界を舞台とする「グルメエピックファンタジー」の第2弾。死に場所を求めて長年仕えた領主の元から去った老騎士バルドの放浪の旅は、同行する仲間を得て、生きるための旅へと変わっていったようです。 『第1巻』で道連れにな…

辺境の老騎士 1(支援BIS)

「支援BIS」とは奇妙なペンネームですが、企画とか集団ではなく、あくまで個人の作家とのこと。本書は、小説投稿サイト「小説家になろう」で連載されていたWEB小説に加筆して書籍化された作品です。 舞台は中世ヨーロッパのような架空の世界。2つの月…

ローカル・カラー/観察記録(トルーマン・カポーティ)

カポーティのノンフィクション・エッセイ集『犬は吠える』の第1分冊であり、第2分冊の『詩神の声聞こゆ』も同じ「ハヤカワepi文庫」から出版されています。著者は、自作を批判されて落ち込んでいる時に出会ったアンドレ・ジイドから「犬は吠える。がキャラ…

二十一の短篇(グレアム・グリーン)

1954年に刊行された短編集ですが、収録されている作品は1921~41年に書かれた初期のものです。 喜劇、悲劇、ホラー、不条理とさまざまなジャンルの作品が並んでいますが、共通して流れているのは淡いペーソスですね。 「廃物破壊者たち」:廃屋に…

ルイ・ボナパルトのブリュメール一八日(カール・マルクス)

『レ・ミゼラブル』の続編である『コゼット』を読んで、彼女と夫マリウスが抵抗したナポレオン三世のクーデター過程を復習しようと思い、学生時代に読んだ本書を再読してみました。 1851年12月2日のクーデター直後の1852年の1月から3月にかけて…

11/22/63(スティーヴン・キング)

タイトルは「1963年11月22日」、ケネディ大統領がダラスで暗殺された日付を意味しています。本書は「過去へ通じる穴」の存在を知った平凡な30代の英語教師ジェイクが、ケネディ暗殺を阻止するために過去を改変しようとする物語なのです。既に何度…

知の果てへの旅(マーカス・デュ・ソートイ)

オクスフォード大学教授にしてイギリス王立協会フェローである数学者が、「人間に知りえないこと」の最先端をわかりやすく解説した作品です。『素数の音楽』で数論を、『シンメトリーの地図帳』で群論を解説してくれた際に、最後には数学と宇宙との関わりま…

路上のX(桐野夏生)

両親の失踪後に預けられた叔父の家でネグレクトされ続けた真由、継父から性的虐待を受けたリオナ、レイプにあって望まない妊娠をしたミト。それそれの理由で日常生活を失い、家を出た3人の女子高生たちは、男たちのむき出しの欲望が襲い掛かってくる路上で…

コゼット 下(ローラ・カルパキアン)

『レ・ミゼラブル』の続編である本書では、『上巻』は長いプロローグのようなものでした。しかし『下巻』ではいきなりクライマックスシーンが訪れます。ルイ・ナポレオンによるクーデターを阻止するための闘いでバリケードに籠ったマリウスが、一発の銃弾に…

コゼット 上(ローラ・カルパキアン)

ヴィクトル・ユゴーの代表作である『レ・ミゼラブル』は、1832年の六月暴動を生き延びたマリウスと養女コゼットの結婚を見届けたジャン・ヴァルジャンが静かに世を去る場面で終わります。しかしこれ以降のパリでは、 第二共和制を誕生させた1848年の…

寒い国から帰ってきたスパイ(ジョン・ル・カレ)

冷戦の最中の1963年に出版された、巨匠初期の傑作です。後の「スマイリー3部作」の主役たちは端役で登場。近作の『スパイたちの遺産』で本書の背景が描かれたのを機に手に取ってみました。こんな有名な作品が未読だったとは! イギリス情報部がベルリン…

パリに終わりはこない(エンリーケ・ビラ=マタス)

著者は1948年に生まれたバルセロナ出身の作家なので、もう大ベテランであり、これまでにも訳書も数冊出ているようですが、今まで知りませんでした。 本書は、著者が20代の頃に2年間、パリでマルグリット・デュラスの所有するアパートに住んで文学修業…

レオナルドの扉(真保裕一)

イタリアの小村で時計職人の祖父と2人暮らしの16歳の少年ジャンには、空を飛ぶ機械を発明したいという夢がありました。そんなジャンに協力するのは、村長の息子で親友のニッコロと、2人を応援する少女マドレーヌ。 しかしそんな日常は、突然村に侵入して…

レディ・ヴィクトリア 2(篠田真由美)

『第1巻』のラストにちょっとだけ登場した新米メイドのローズが、このシリーズのヒロインというのには驚きました。前巻は、ローズが働くことになる風変わりなシーモア家を説明するための、長いプロローグだったのですね。そういえば著者は、このシリーズで…

遺訓(佐藤賢一)

山形県鶴岡市の出身の著者が、戊辰戦争をほぼ無傷で生き残った庄内藩の奇跡を綴った『新徴組』の続編にあたる作品です。なぜ明治維新の際に敵であった元庄内藩士が、西郷隆盛の「遺訓」を編纂し、上野の銅像を立てる際の発起人となったのか。明治初期の秘話…