りぼんの読書ノート

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知の果てへの旅(マーカス・デュ・ソートイ)

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オクスフォード大学教授にしてイギリス王立協会フェローである数学者が、「人間に知りえないこと」の最先端をわかりやすく解説した作品です。素数の音楽で数論を、シンメトリーの地図帳群論を解説してくれた際に、最後には数学と宇宙との関わりまで読者を誘ってくれた著者にふさわしいテーマでしょう。

しかしながら知の最先端があまりにも細分化されて深化を遂げた現代において、一般読者が各分野の最前線の知識と限界を理解する困難さは並大抵のものではありません。できるだけ平易に書いてくれているのですが、読んでいて気が遠くなりかけた箇所もありました。

著者が選んだ「回答不能の問い」とは、「1.未来予測、2.最少素粒子、3.量子物理学、4、宇宙の果て、5.時間の性質、6.意識のハードシップ、7.無限の限界」の7テーマです。確立論は次のサイコロの目を当てることはできず、既知の素粒子が物質の最少階層とは断言できませんが、量子のゆらぎとは量子の位置と運動量の観測限界をブレイクスルーすれば解明できるのかもしれません。

138億年前に誕生した宇宙の観測限界は138億光年の彼方にあるのですが、現在はもっと遠くなっていることは自明です。さらに、別のビッグバンで誕生した別の宇宙の存在も否定できません。しかも時間とはビッグバンによって生まれたものとは限らず、イーオン(前のビッグバンから次のビッグバンまで)の無限列かもしれないというのです。

脳科学の発展が意識を解明し、AIが意識を持つ日は来るのでしょうか。ある一線を越えることはできないとの研究もあるようですが、もちろん証明されたわけではありません。「語り得ぬものについては、沈黙せねばならぬ」とのウィットゲンシュタインの言葉に対して、著者は「知り得ぬものについいては、想像力を働かすことができる」との言葉で本書を締めくくっています。究極と思われた謎を解決した科学のブレイクスルーが、より深遠な難問をもたらしてきた歴史があろうと、知の最前線が広がっていることは誰も否定できないのです。

2018/11