りぼんの読書ノート

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クリフトン年代記7.永遠に残るは(ジェフリー・アーチャー)

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2011年から2016年に渡って書き継がれた、著者畢生の大作がついに完了。第一次大戦直後の1920年に生まれたハリー・クリフトンが、サッチャー政権終了後の1992年に亡くなるまでの一代記は、同時に現代イギリスの政治社会史ともなっています。

ブリストルの港湾労働者の息子として生まれてベストセラー作家となり、爵位を与えられるに至ったハリー・クリフトンは、もちろん著者の分身ですが、旧ソ連の反体制作家の禁書を世界に広めてノーベル文学賞を受賞させるなどは、著者の業績を越えていますね。ハリーが生涯最後に遺したという傑作は、本シリーズに擬されているのでしょうか。

もうひとりの著者の分身が、ハリーの義兄となったジャイルズ・バリントンです。貴族の家系に生まれながら労働党の国会議員となったジャイルズは、離婚した元妻のヴァージニアの復讐に苦しめられ続けたり、サッチャーの出現によって政権から追われたりもするのですが、本巻では最後の栄誉に浴することになります。

ジャイルズの妹でハリーの妻となったエマもまた、著者の分身ですね。北海油田幽霊会社に投資して全財産を失った著者とは異なり、経済界で成功を重ね続けたエマは、サッチャー首相に評価されて閣僚として登用されるに至ります。2人の息子で若い頃は問題を起こしたものの銀行会長となったセバスチャンや、画家の道を歩み始めた孫のジェシカにも、著者の一部が反映されているようです。

かくして愛情に満ちたハリーとエマの物語は最終章に至ります。ハリーの出生の秘密も明かされますが、前後の関係から見るとこの結論は誤訳ではないでしょうか。波乱に満ちた幸福な生涯をおくった2人にとって、この問題は既にどうでも良いはずなのですが、読者としては気になる点が残ってしまいました。

2018/11