りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2017-10-01から1ヶ月間の記事一覧

2017/10 鬼殺し(甘耀明)

冲方丁さんの最後のラノベという「シュピーゲル・シリーズ」が完結しました。10年に渡って書き継がれたため、物語の想定年であった2016年を現実が追い越してしまったとのこと。さすがに「転送技術」は実用化されていませんね。全13巻分を纏めて「特…

凜(蛭田亜紗子)

札幌市出身の著者による「北海道の黒歴史」です。もともとは、網走の遊郭出身で後に市会議員となった実在の女性をモデルにした作品を書こうと思ったそうですが、遊郭で生きる女性と、トンネル工事のタコ部屋で生き抜く青年の2人を主人公とした物語に仕上が…

鬼殺し 下(甘耀明)

日本による統治から中国国民党による支配への移行という動乱期を生きた、台湾の少年と祖父を、マジック・リアリズムの手法を用いながら描いた作品の下巻は、日本の敗戦から始まります。米軍の台湾上陸を阻止するために兵を率いて中央山脈を越え東部へと向か…

テスタメントシュピーゲル 3下(冲方丁)

著者が10年に渡って書き継いできた「シュピーゲル・シリーズ」がついに完結を迎えました。世界中のテロが交差する近未来都市ウィーンで、機械化された特甲少女たちが闘うシリーズは、著者の最後のライトノベルになるとのことです。 壊滅の危機に陥れた都市…

ブルゴーニュの村便り(長森光代)

1970年代前半に、歌人である著者が画家の夫とともに、ブルゴーニュ地方のクールトワ村に住んだ6年間の日々を綴ったエッセイです。著者は「一生のうちの6年といえば、さほど長い期間とは思えないが、私と私の夫にとっては、内なる世界を最も充実させ燃…

ハリネズミの願い(トーン・テレヘン)

谷川俊太郎氏から「ぼくが一生かかっても書けない、かわいくて怖い童話」と評された作品です。 自分のハリが大嫌いで他の動物たちとうまくつきあえないハリネズミが、誰かを家に招待しようと思い立って手紙を書きはじめるのですが、不安に襲われて手紙を送る…

アキラとあきら(池井戸潤)

2017年の出版ですが、雑誌に連載されていたのは2006年から2009年にかけて。『空飛ぶタイヤ』や『鉄の骨』と同時期であり、この作品と並行して『オレたちバブル入行組』や『オレたち花のバブル組』の「半沢直樹シリーズ」も書き進められていたわ…

悪党どものお楽しみ(パーシヴァル・ワイルド)

楽しい作品でした。賭博師稼業から足を洗い、農夫として質実な生活を送っていたビルが、ギャンブル好きでお調子者の友人トニーに担ぎ出され、凄腕いかさま師たちと対決して巧妙なトリックを暴いていく物語。ビルは、トニーの妻で愛らしいミリーから頼まれる…

うたかたの日々(ボリス・ヴィアン)

「小さなバラ色の雲が空から降りて来て、シナモン・シュガーの香りで二人を包みこむ」・・そんな幸福な出会いを果たした、夢多き青年コランと美しくも繊細な少女クロエの物語が、途中から一変してしまいます。 クロエは「肺の中で睡蓮の花が咲く」という奇病…

いなごの日/クール・ミリオン(ナサニエル・ウエスト)

大恐慌時代のアメリカ文学者では『怒りの葡萄』などを著したスタインベックが有名ですが、本書の著者もそのひとりです。ただし正統派のスタイベックに対して、グロテスクなブラックユーモアが勝りすぎる作風のせいか、知名度は低いのです。今回の「村上柴田…

太陽の坐る場所(辻村深月)

高校卒業から10年。20代後半になった同級生たちは、人気女優となったもののクラス会に現れないキョウコのことが気にかかっています。しかしキョウコに連絡をとろうとした同級生たちは、次々に音信不通になっていくのです。その背景には、高校時代に起き…

テロルの決算(沢木耕太郎)

「山口二矢(やまぐちおとや)」といっても、誰のことなのかピンとこない人が大半かもしれません。1960年に日比谷公会堂で演説中の社会党委員長の浅沼稲次郎を刺殺し、直後に獄中で自殺した右翼少年です。 本書は、著者がデビュー4年目の1979年に著…

黄昏の彼女たち(サラ・ウォーターズ)

第一次世界大戦で父と兄弟を失い、めっきり老け込んだ母親と2人暮らしになったフランシスは、もはや広い屋敷を維持できません。銀行員のレナードとリリアンの若い夫婦に部屋を貸すことにしたものの、同居人を置く生活は神経を使うもの。夫婦仲がうまくいっ…

不機嫌な女たち(キャサリン・マンスフィールド)

20世紀前半に短編の名手として活躍したニュージーランド出身の女性作家の短編集からは、女性たちの感情の揺れが匂い立ってくるようです。しかもその背景に隠された真の感情は、「怒り」であるようにも思えるのです。 「幸福」 はじめて夫に欲望を感じた夜…

銀の猫(朝井まかて)

平均寿命が50歳未満であったという江戸時代ですが、それは乳幼児死亡率が高かったため。長寿の人はそれなりに多かったようです。美しく奔放な母に手を焼きながら、江戸で老人介護を生業として暮らすお咲を主人公にした連作短編からは、今も昔も変わらない…

ピンポン(パク・ミンギュ)

語り手である中学生の少年の仇名は「釘」。いじめっ子のチスから、毎日「釘を打つ」ように頭をガンガン殴られているから。彼の唯一の友人は、やはりいじめられっ子のモアイ。釘は思うのです。いじめは、直接手を下さずに「多数のふり」をしている生徒たちの…

不時着する流星たち(小川洋子)

「世界のはしっこでそっと異彩を放つ人々」からインスパイアされた10編からなる短編集です。本書のタイトルは、孤独な彷徨い人たちが「ようやく着陸しようとしたのに、なかなかうまくいかない」からとのこと。謎や不安を残したままの座りの悪いエンディン…

浮遊霊ブラジル(津村記久子)

パワハラにあって就職先を退社したという経歴を持つ著者の作り出す登場人物たちは、世間にうまく溶け込めない者が多いのです。芥川賞を受賞した『ポトスライムの舟』の頃は「生気のない女性たちばかり」と思っていたのですが、最近では「それでも生きていく…

GOSICK GREEN(桜庭一樹)

新大陸の到着した早々、移民一世で財を成した女傑の高層ビル爆破事件や、戦争中に仲間を撃ったというボクサーの錯覚を解いたヴィクトリカが開業したグレイウルフ探偵社には、さっそく依頼人が殺到。 独創的な建築家によって建造されユニークな仕掛けが随所に…

プルーデンス女史、印度茶会事件を解決する(ゲイル・キャリガー)

『英国パラソル奇譚シリーズ』のアレクシアの娘、プルーデンス(通称ルー)が活躍する新シリーズのスタートです。 吸血鬼や人狼などの異界族と人類が共存する19世紀の英国。ワンタッチで異界族の能力を奪ってしまう「ソウルレス」のアレクシアは、狼男であ…

深夜特別放送(ジョン・ダニング)

『死の蔵書』などの書籍にまつわるミステリが多く紹介されている著者が、戦時下に興隆を迎えたラジオ局を舞台にして、戦時下の強制収容というテーマに向き合った重層的なミステリ作品です。 1942年。愛するホリーへの失恋の痛手から放浪生活を送っている…

失踪(ドン・ウィンズロウ)

『ストリート・キッズ』でデビューし、メキシコからアメリカへの麻薬密輸問題に踏み込んだ『犬の力』で大ブレークを果たした著者による警察サスペンスです。もっとも主人公は、すぐに警察を退職してしまうのですが。 アメリカ中西部の平穏な町で5歳の少女ヘ…

オケ老人!(荒木源)

人気アマオケ「梅ヶ丘フィルハーモニー」の演奏に感動して、再びバイオリンへの挑戦を決意した高校教師の中島でしたが、間違って「梅が岡交響楽団」に入団してしまいます。そこは、平均年齢が70歳を超えると思われる、演奏も覚束ない「オケ老人」たちの集…

葵の月(梶よう子)

徳川家治のもとで田沼意次が全盛を誇った時代から、徳川家斉と松平定信による「寛政の改革」への移行の背景に、田沼派と一橋派の暗闘があったことは間違いのない事実でしょう。その暗闘に巻き込まれながらも、 信念を貫いた男女の物語です。 徳川家治の継嗣…

万次郎茶屋(中島たい子)

『漢方小説』の著者にSFは似合わない気もしますが、もちろん「ど直球SF」ではなく「すこし不思議」な程度。これが意外と合うのです。やはりSF仕立てであった『LOVE&SYSTEMS』はちょっと外した感もありましたが、本書には著者の魅力が溢れ…

鬼殺し 上(甘耀明)

本書に描かれた時代は、1941年12月の太平洋戦争勃発から、1947年の2・28事件まで。日本による統治から中国国民党による支配への移行という動乱期を生きた、台湾の少年と祖父を、マジック・リアリズムの手法を用いながら描いた作品です。上巻は…