りぼんの読書ノート

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ブルゴーニュの村便り(長森光代)

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1970年代前半に、歌人である著者が画家の夫とともに、ブルゴーニュ地方のクールトワ村に住んだ6年間の日々を綴ったエッセイです。著者は「一生のうちの6年といえば、さほど長い期間とは思えないが、私と私の夫にとっては、内なる世界を最も充実させ燃焼させた重要な一時代」と語っています。

綴られているのは、夫と共に「紙の浪費業」を続けながらの、田舎の村での日々の生活です。ちょっと目についたことや、ふと考えたことばかりなのですが、これが面白い。どこまでも続く小麦やブドウの畑。タンポポ摘みに行った思い出。サクランボの産地を訪ねて行った2人だけのお花見。貴重なお風呂を探し求めたこと。貸馬車に乗っての小旅行。薪で焼いたパンのおいしさ。市場でみつけたエスカルゴ。近所付き合い。ジプシーという異文化との接触。病気で入院した時の心細さ・・。

当時から40年以上たって読むと、異国や異文化というよりも、時代の変化を感じることが多いのですが、それでも著者のみずみずしい感覚が伝わってきます。著者が外部に対して感覚を解放させていたことが、淡々とした文章の中から、溢れ出てくるように思えるのです。著者が当時の平凡な生活を「最も重要な一時代」とまで位置付けた理由は、そのあたりにあるのでしょう。

2017/10