りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2014-11-01から1ヶ月間の記事一覧

2014/11 図書室の魔法(ジョー・ウォルトン)

「読書が絡む成長物語」は大好きなのです。「15歳という年齢など空想の産物だが、妖精は実在する」というお茶目な前書きから始まる不思議な物語は、想像力を思いっきり刺激してくれました。そういえば、ユゴーは12歳の少年ですし、「王妃」のクラスメー…

エウロペアナ(パトリク・オウジェドニーク)

「20世紀史概説」と副題のつく本書は、「コーネルの箱」を思わせる作品です。雑多に見える既成のイメージをひとつの箱に閉じ込めた結果が、断片からは想像もできなかった総体として芸術へと昇華されたコラージュ作品として仕上がっているのです。 ノルマン…

テスタメントシュピーゲル 1(冲方丁)

『オイレンシュピーゲル・シリーズ』と『スプライトシュピーゲル・シリーズ』が融合された、両シリーズの続編です。 民族主義の残渣と、国連組織経由で持ち込まれた世界中のテロが交差する近未来都市ウィーン。超少子高齢化を背景とした児童労働の許可と、重…

かつては岸(ポール・ユーン)

1980年にニューヨークで生まれた韓国系アメリカ人小説家といいますから、連作短編の舞台である済州島(本書ではソラ島)のことも、日本による占領や朝鮮戦争直後の時代のことも、自分自身の記憶や体験に基づいているわけではありません。 本書を貫いてい…

クリフトン年代記3.裁きの鐘は(ジェフリー・アーチャー)

ついにバリントン家の跡継ぎ問題も、ハリーとエマの結婚問題も決着がつきましたが、ハリーに新たな敵役が登場してきます。その相手はなんと長年の親友で、エマの兄であるジャイルズ。結婚相手となった伯爵家のヴァージニアがとんでもない悪女で、庶民院議員…

クリフトン年代記2.死もまた我等なり(ジェフリー・アーチャー)

シリーズ第2部の大半は、第二次世界大戦の時代です。戦争の中で、主人公たちの運命も大きく変わっていくことになります。 愛するエマが異母妹である可能性が判明して結婚をあきらめたハリーは、乗り組んだ船が沈められた際に死亡したアメリカ人の名前を名乗…

天冥の標5.羊と猿と百掬の銀河(小川一水)

シリーズ第4巻『機械じかけの子息たち』から36年後。小惑星パラスで、細々と地下の野菜工場を営んでいる農夫タック・ヴァンディには、大きな秘密と悩みがありました。 彼が抱えている秘密とは、彼自身の生い立ちと、反抗期を迎えた一人娘ザリーカの正体の…

ユゴーの不思議な発明(ブライアン・セルズニック)

マーティン・スコセッシ監督による映画「ヒューゴの不思議な発明」の原作です。映画に対する愛情をテーマとする洗練されたファンタジーは、まるで本書自体が映画のよう。まるでコマ割りのように描かれた何ページもの挿画も魅力的ですし、実際の映画も原作に…

異星人の郷(マイクル・フリン)

中世終盤の1348年。英仏百年戦争はまだ序盤戦でフランスが大敗したころ。ローマ教皇はアビニョン捕囚の最中。イタリアはルネサンス前夜。ドイツでは諸王家による神聖ローマ帝国皇帝位の争いが続いていました。そしてこの年、ヨーロッパの主要都市はペス…

相も変わらずきりきり舞い(諸田玲子)

前作『きりきり舞い』で18歳だった舞も20歳になってしまいました。 中風を病んで気難しさを増した父親・十返舎一九。一九の弟子と舞の許嫁を自称して居候中のがさつな大男・今井尚武。離縁されて出戻ってから居候を決め込んでいる幼馴染の北斎の娘・お栄…

コレリ大尉のマンドリン(ルイ・ド・ベルニエール)

この本のテーマは何だったのか、読後に考え込んでしまいました。ギリシャの島で第二次世界大戦末期に起きた悲劇を描く反戦小説なのか、イタリア軍将校コレリとギリシャ娘ペラギアの半世紀に及ぶ恋愛物語なのか、それともケファロニア島という地域を擬人的に…

天冥の標4.機械じかけの子息たち(小川一水)

シリーズ第3作『アウレーリア一統』から2年後、意識を失って目覚めた少年キリアンは、激しい衝動に襲われて目の前にいる少女アウローラと愛し合います。やがてキリアンは、自分が「プラクティス」という致死性の高い感染病「冥王斑」キャリア団体の一員で…

大いなる不満(セス・フリード)

1980年生まれの若い著者が作り出す奇妙な世界には、不思議と居心地良さを感じます。作家としてはこんな評価は不本意かもしれませんが、バランスがいいのです。「日常世界と陸続きの不条理」とでもいう感覚でしょうか。ただし、うっかり境界を超えてしま…

キル・リスト(フレデリック・フォーサイス)

1970年の『ジャッカルの日』から1996年の『イコン』まで、国際謀略小説の第一人者であった著者が絶筆宣言を覆してから10年。76歳になりましたが、本書でも現代的なテーマに挑戦し、健在ぶりを見せつけてくれました。何よりも、自らが開拓した分…

冬の夢(スコット・フィッツジェラルド)

村上春樹さんの翻訳によるフィッツジェラルド短編集は、『グレート・ギャツビー』の前後に書かれた「若き日の名作集」です。 「冬の夢」 やはりこの作品がベストですね。奔放で残酷な美女ジュディーに翻弄された青年デクスターが、美しさを失ったあとの彼女…

アンダルシア(真保裕一)

「外交官黒田康作シリーズ」の第3弾です。映画化されたのは2作でしたが、間にもう一冊あったのですね。映画は見ていませんが宣伝の印象が強いので、完全に「黒田康作=織田裕二」になってしまっています。 所用でバルセロナに来ていた黒田は、大使館に掛か…

金曜日の編み物クラブ(ケイト・ジェイコブス)

12歳になる1人娘のダコタを育てながら、ニューヨークで毛糸店を営むシングルマザーのジョージア。多くのサポーターや常連客に支えられ、お店も金曜夜の編み物会もようやく軌道に乗ってきたときに、波乱が起こります。 ひとつはダコタの父親で、ダコタの誕…

王妃の帰還(柚木麻子)

カトリック系中高一貫のお嬢様学校で、中等部2年の範子のクラスには、5つの仲良しグループがありました。「お嬢様」の定義から外れている範子は、一番地味なグループに属しているのですが、それなりに平和な日々をすごしていたのです。 ところが、クラスに…

伊藤くんA to E(柚木麻子)

本書に登場する伊藤くんは、典型的なダメ男。ハンサムで、実家はお金持ちで、プライドは高いけれど、自分自身は何者にもなれていません。予備校でアルバイト講師をしながら、シナリオライターを目指しているのですが、それだって口先だけ。とにかく自分勝手…

王朝小遊記(諸田玲子)

藤原道長からも一目置かれていた右大臣・藤原実資が遺した『小右記』は、当時の政治・社会・儀式などを今に伝える貴重な日記です。本書は、ひょんな縁から藤原実資邸に集まって「疑似家族」となった庶民たちが、力を合わせて「人喰い鬼」と対決する物語。 も…

旅猫リポート(有川浩)

有川さんバージョンの『ティンブクトゥ』でしょうか。ポール・オースターの作品では、主人公は犬でしたけどね。 大怪我をした際に救ってもらって以来、サトルの相棒ネコとなったナナは、サトルと一緒に旅に出ます。それはサトルにとって、懐かしい人々を訪ね…

図書室の魔法 下(ジョー・ウォルトン)

狂った魔女である母親との対決の結果、双子の妹モルを失い自身も大けがを負った15歳の少女モリ。会ったこともなかった父親に引き取られてウェールズからイングランドに移り、3人の伯母たちによって全寮制の学校に入れられたモリの救いは、SFとファンタ…

図書室の魔法 上(ジョー・ウォルトン)】

『ファージング3部作』の著者による「SF作品」とのことですが、本書のどこがSFなのでしょう。 1979年のイギリスで15歳の少女が綴る日記。読み進めていくうちに、主人公の少女モリは、精神を病む母親リズの虐待から逃れる際の事故で双子の妹モルを…

ランチのアッコちゃん(柚木麻子)

美味しそうな料理を小道具に使って、働く女性たちが一歩を踏み出す姿を描いた連作短編集です。時には主役に、時には端役にまわるアッコちゃんは、芸能界の「ゴッドねえちゃん」クラスの迫力です。 「ランチのアッコちゃん」 恋人に振られた派遣社員の三智子…

星々たち(桜木紫乃)

北の大地で不器用に生きた女・塚本千春の半生を軸にした連作短編集は、「桜木ワールド」全開の作品です。結果を考えずに退路を断ったような生き方も、家族や友人に背を向けて自分のことしか考えられない性格も、決して彼女に幸福をもたらすことはないのです…