りぼんの読書ノート

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王朝小遊記(諸田玲子)

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藤原道長からも一目置かれていた右大臣・藤原実資が遺した『小右記』は、当時の政治・社会・儀式などを今に伝える貴重な日記です。本書は、ひょんな縁から藤原実資邸に集まって「疑似家族」となった庶民たちが、力を合わせて「人喰い鬼」と対決する物語。

もちろん「鬼」がいたわけではありません。「鬼」を騙って実資の娘・千古を付け狙う勢力の黒幕は誰で、何をもくろんでいるのか。公にはできない捜査を密かに行うために集められたのが、男に全てを奪われて死を覚悟した物売女ナツメ。家を捨てて隠居した元官人の博学爺さんのナマス。主を失った元女房で年増女のシコン。貴族の不良少年で欲求不満のコオニ。大宰府帰りの勇士で貧民窟の用心棒となっているニシタカ。

それぞれができることは限られていますが、特技をうまく組み合わせれば何とかなる・・と思いきや、敵の繰り出す容赦ない暴力の前には手が出ない。せっかくの「疑似家族」も崩壊し、さらに命の危険も迫るのですが・・。

名手による、よくできた物語です。孤独な者たちが心を通わせていく過程にも説得力がありました。売れる時代小説は「江戸時代もの」だけという風潮のなかで、あえて平安朝に挑んだ著者と出版社の意欲も「買い」ですね。

2014/11