りぼんの読書ノート

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伊藤くんA to E(柚木麻子)

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本書に登場する伊藤くんは、典型的なダメ男。ハンサムで、実家はお金持ちで、プライドは高いけれど、自分自身は何者にもなれていません。予備校でアルバイト講師をしながら、シナリオライターを目指しているのですが、それだって口先だけ。とにかく自分勝手で、「人のことを傷つけるのはOKだけど、自分が傷つけられるのは死んでも嫌だ」というタイプなのです。しかも、それが見え透いてしまうからイタすぎる。

しかし、そんなダメンズがなぜかモテるのです。本書は、そんな男に振り回された5人の女性たちを描いた連作短編集。「A」は、伊藤から粗末に扱われ続けながら片思いをやめられない、デパート勤務の超美人・島原知美。「B」は、伊藤からストーカーまがいの好意を持たれたフリーター・野瀬修子。「C」は、親友が伊藤を好きなことを知りながら伊藤の童貞を奪うケーキ店の副店長・相田聡子。「D」は、処女は重いと伊藤に振られて自暴自棄になった大学職員・神保実希。「E」は、伊藤が通いつめる勉強会を開く、すでに売れなくなった33歳の脚本家・矢崎莉桜。

「こんな男のどこがいいのか」と帯にもありますが、私にも全く理解できません。伊藤くんは「甘やかされた育った男」の典型なのですが、こういう男に母性本能を刺激される「ダメンズ好きの女性」というのも、いるのでしょう。しかし「こんな男」に振り回される女性のほうもイタイのです。

しかし本書は、平成25年下半期の直木賞候補となっただけあって、イタイ男女の物語というだけではありません。伊藤くんと関わって傷ついた女性たちは、その結果、自分の人生に折り合いをつけて、それぞれに巣立っていくのですから。最後まで自分が傷つくことを避け続けた伊藤くんとの対照が、際立ちますね。著者のこの感覚は、2期連続して直木賞候補となった本屋さんのダイアナでも健在です。

2014/11