りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2022-12-01から1ヶ月間の記事一覧

2022 My Best Books

2022年に読んだ本は266作品。後半追い上げたのですが、前半に読書量が落ちていたこともあって、前年よりも21冊も減ってしまいました。今年の特徴は、海外の軽妙で良質な作品が多かったことでしょうか。昨年後半から手に取ることが多くなった韓国フ…

2022/12 Best 3

1.三体(劉慈欣 リウ・ツーシン) 近年躍進著しい中国SFは「三体以前」と「三体以後」に分かれると言われるほどに、画期的な作品です。予測不能な三重太陽の動きに翻弄される惑星に文明が生まれたとしたら、どのようなものになるのでしょう。そして文化…

ぼくらが女性を愛する理由(ミルチャ・カルタレスク)

ノーベル文学賞候補との評判も高いルーマニア作家が2004年に著した本書は、21章の短編、掌編、エッセイ、断章からなっています。本格的な小説ではなく、決して著者の代表作ではありませんが、最も人気のある作品だとのこと。 テーマはずばり女性賛歌。…

レス(アンドリュー・ショーン・グリア)

主人公は50歳の誕生日を目前にした作家のアーサー・レス。サンフランシスコ在住の彼は、ビートニクを思わせる架空の芸術家集団ロシアリバー派の生き残りです。一世代上の天才詩人ロバートと同棲した影響で小説を書き始めたものの、知名度はイマイチで最新…

三体(劉慈欣 リウ・ツーシン)

昨今の中国SF界の興隆は目覚ましいものですが、中でも本書は「現代SFの歴史を大きく塗り替えた1冊」としてオバマ元大統領が愛読するなど、世界的に大ヒットした作品です。本書をカール・セーガンやアーサー・C・クラークの代表作になぞらえる向きもあ…

すごすぎる将棋の世界(高橋茂雄)

著者は芸人のサバンナ高橋さん。今年の4月からNHKの将棋番組の司会を務めている高橋さんは、藤井総太ブームに乗って2020年から将棋の世界に関心を持ったばかりの初心者です。将棋の実力は級位者にすぎず、相棒の山口恵理子女流2段のサポートに助け…

ははのれんあい(窪美澄)

「家族の形」に変化をもたらす要因はたくさんあります。結婚、離婚、出産、独立、転居、不和、病気、同居、別居、そして死別。本書は、否応なしにもたらされる変化に翻弄されながらも懸命に家族を守ろうとする母と息子の視点を通して、家族の在り方を見つめ…

アニマ(ワジディ・ムアワッド)

著者は内戦が激化したレバノンから、8歳の時に家族と共にフランスに亡命し、後にカナダで劇作家となった人物です。本書には、祖国と母語を同時に失った著者のアイデンティティを奪われた哀しみが込められているようです。本書の主人公ワハシュの経歴も著者…

睦月童(西條奈加)

江戸時代を舞台に東北の「座敷童伝説」をベースにして、想像力を縦横無尽に羽ばたかせた奇想ファンタジー作品です。本格時代小説作家として直木賞も受賞した著者ですが、ベースはファンタジーにあることを再確認させてもらいました。この作品の後にも「雨月…

韓国文学の中心にあるもの(斎藤真理子)

近年の韓国文学、とりわけフェミニズム文学と言われる分野の作品は「パワフルで魅力的」です。私もこの数年の間に、ブームの火付け役とされる『82年生まれ、キム・ジヨン』をはじめ、書肆侃侃房から出版された「韓国女性文学シリーズ全10巻」、白水社エ…

息子を奪ったあなたへ(クリス・クリーヴ)

17【息子を奪ったあなたへ(クリス・クリーヴ)】 「オサマ・ビン=ラディンが首謀した自爆テロによって、ロンドンのサッカー場で千人を超える死傷者が発生」というのは架空の事件です。しかし本書が出版された2005年7月7日には、ロンドンの地下鉄と二…

興亡の世界史14.ロシア・ロマノフ王朝の大地(青柳正規編/土肥恒之著)

「諸民族の監獄」と呼ばれる「広大無辺の帝国」はいかに成立したのでしょう。本書のテーマは明確です。そしてそれは、ロマノフ王朝も後継のソ連邦も絶えた現代においても、問い直されるべきテーマなのです。 1240年にチンギス・ハンの孫であるバトゥがモ…

星落ちて、なお(澤田瞳子)

2021年下期の直木賞受賞作です。中世以前の日本に詳しい著者ですが、時代小説の読者層は江戸時代が中心であるせいか、近世以降の物語も増えてきています。本書は明治・大正期を舞台とする女絵師の半生をたどった作品です。 主人公は、幕末から明治初期に…

帝都最後の恋 占いのための手引き書(ミロラド・パヴィッチ)

「ナポレオン戦争時代を舞台にした、セルビア人3家族をめぐる奇想にみちた愛と運命の物語」です。章の順番どおりに読むと時系列順に並んだひとつの物語ですが、巻末に付けられたタロットカードを用いて、占いのように22の章をランダムに読んでも良いとの…

アイダホ(エミリー・ラスコヴィッチ)

母親による娘殺しという衝撃的な事件が核となっていますが、静謐感をたくわえた物語となっています。主な語り手は、2004年時点で38歳だった頃のアン。音楽教師であるアンは、アイダホ州北部の人里離れた山中で50歳になる夫ウェイドと2人で暮らして…

ひこばえに咲く(玉岡かおる)

「ひこばえ」とは、樹木の切り株や根元から新たに生える芽のこと。樹勢が強いため、青森県の特産であるリンゴでは、ひこばえを接ぎ木の台木として使っているとのこと。本書は、津軽のりんご園に生まれ育って画家となりながら、最晩年になって「発見」された…

ミス・サンシャイン(吉田修一)

長崎出身の著者は、原爆投下直後の長崎で撮られて「ラッキー・ガール」と題された笑顔の少女の写真を見て、本書の構想を得たそうです。もしこの少女が原爆症で亡くなった親友の思い出を心に秘めながら、アメリカでも人気を博す大女優になっていたら、どのよ…

興亡の世界史13.近代ヨーロッパの覇権(青柳正規編/福井憲彦著)

国家、民族、産業、科学、文化、思想など、現代の世界を覆っているメジャーな価値観のほとんど全てが「近代ヨーロッパ」が世界的な覇権を掌握する時代に生み出され、今なお定義を新たにしながら再生産され続けているようです。「近代ヨーロッパ的なもの」に…

古道具おもかげ屋(田牧大和)

主人公は、小さな古道具屋「おもかげ屋」の若い店主の柚乃助と、離れに住んで迷い猫探しで生計を立てている少女のさよ。それぞれに家庭の事情を抱えている2人が、なぜこのような暮らしをしているのかが明かされていく物語。 さよは呉服問屋の一人娘だったも…

あきない世傳 金と銀12 出帆篇(高田郁)

江戸時代の不況期であった18世紀半ば、新たな才覚で商売を切り開いていった女性、幸を主人公とするシリーズも12巻めとなりました。「出帆篇」との副題のとおり、帆を上げて大海を目指すことになるのですが、幸も自戒しているように、航海は沖に出るまで…

フォンターネ 山小屋の生活(パオロ・コニェッティ)

北イタリアの山岳地帯を舞台にして2人の少年の友情と葛藤を描いた『帰れない山』の著者が、その3年前に自らの心情を率直に綴った作品です。 1978年にミラノで生まれた著者は20代で作家デビューするほど早熟の天才だったようです。しかし30歳の頃に…

スターシップ2海賊(マイク・レズニック)

前作『スターシップ1反乱』の読後感は良くなかったのですが、2冊シリーズを纏めて借りてしまったので、やむなく読書。こちらのほうがマシだったかな。 英雄的な軍人でありながら独断専行に走りがちなコール中佐が辺境宙域の老朽艦「セオドア・ルーズベルト…

スターシップ1反乱(マイク・レズニック)

桜庭一樹さんが『少女を埋める』で言及していた『キリンヤガ』を読もうと思ったのですが、図書館蔵書に含まれていなかったので、同じ著者のSF小説を読んでみました。結果は期待外れ。『キリンヤガ』は不条理な環境で育つ少女の孤独な闘いを描いた作品なの…

小説火の鳥 大地篇下(桜庭一樹)

謎の聖域美女マリアの正体は、400年前に滅亡した楼蘭でただひとり生き延びた王女でした。彼女の境遇を憐れんだ「火の鳥」が、彼女に「永遠の一日」を与えてくれました。しかし初代の楼蘭調査隊によって「火の鳥の首」を盗み出されたことで、禁断の秘密が…

小説火の鳥 大地篇上(桜庭一樹)

手塚治虫のライフワーク「火の鳥」の未完作「大地篇」の構想を下敷きにして、新たな物語を創り出すという発想が凄い。その書き手に桜庭一樹を選んだという企画も凄い。まるで不死鳥のように、手塚治虫が生み出したキャラクターたちに、新たな生命が吹き込ま…

アカシアは花咲く(デボラ・フォーゲル)

あらゆる意味でマイノリティ小説家であった著者が知られるようになったのは、2000年代に入ってからのことだそうです。彼女が1942年にナチスのユダヤ人ゲットーで射殺されてから60年以上もたってからのこと。 彼女のマイノリティ性は比類がありませ…

金木犀とメテオラ(安壇美緒)

「少女たちの挫折と成長と友情の物語」などと評してしまうとありきたりに思えますが、優れた作品は読者の心に響くのです。少女たちの内面に深く迫ることができるのかがポイントなのでしょう。 12歳の春。2年前に母親を亡くして娘の成長や教育に無関心な父…