りぼんの読書ノート

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あきない世傳 金と銀12 出帆篇(高田郁)

江戸時代の不況期であった18世紀半ば、新たな才覚で商売を切り開いていった女性、幸を主人公とするシリーズも12巻めとなりました。「出帆篇」との副題のとおり、帆を上げて大海を目指すことになるのですが、幸も自戒しているように、航海は沖に出るまでがもっとも危ないのです。

 

浅草田原町に「五鈴屋江戸本店」を開いて10年、「源流篇」では幼い少女だった幸も40歳になろうとしています。大相撲とコラボした藍染め浴衣地で江戸中に知られるようになった五鈴屋でしたが、再び呉服も扱うことが主従共通の願い。かつて陰謀で締め出されてしまった呉服仲間には戻れませんが、綿を扱う太物仲間の協力を得て、ようやく新たな道筋が見えてきました。もちろんそれは容易いことではありません。因縁の音羽屋の妨害を押しのけて、幕府への陳情を通すことは可能なのでしょうか。

 

ビジネスでの成功は多くのステークホルダーの満足を得ることにかかっています。従業員とは深い信頼関係で結ばれ、職人だけでなく生産地や流通業者や同業者仲間、さらには相撲や歌舞伎などのコラボ相手、官公庁や地域、そしてもちろん一般顧客にまで気を配るのは並大抵のことではありません。しかし江戸時代に成功した商人たちは、ビジネス理論など知らなくてもそれができていたのでしょう。

 

大坂店主の周助や鉄助、江戸の賢輔や佐助など、若い後継者たちも育ってきています。呉服切手という新たなアイデアや、花魁ではなく芸一本で生きていく女芸者を対象として吉原の衣装競べへの参入という新規ビジネスも花開いていくのでしょうか。目指す大海も目前のようです。敵となってしまった妹の結との関係修復がなるかどうかも気になります。

 

2022/12