りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2023-11-01から1ヶ月間の記事一覧

2023/11 Best 3

1.アーダの空間(シャロン・ドデュア・オトゥ) 15世紀のアフリカ西海岸の村で幼児を失って悲嘆に暮れる母。19世紀のロンドンでディケンズと逢瀬を重ねる伯爵夫人。1945年のポーランドで強制収容所の慰安婦となった女性。そして現代のベルリンで差…

待ち合わせ(クリスチャン・オステール)

直前に読んだ『口ひげを剃る男』もそうでしたが、妄想に支配されている男の心情や行動を描くことにかけては、フランス文学は群を抜いているように思えます。 主人公は3か月前に恋人のクレマンスを別れたものの未練たっぷりの男。彼女と縒りを戻すために、「…

口ひげを剃る男(エマニュエル・カレール)

「ぼく、口ひげ剃っちゃおうかな?」。ふとした思い付きで10年間貯えていた口ひげを剃り落とした男が、悪夢的な悲劇に襲われてしまいます。はじめに相談したはずの妻のアニエスも、その晩夕食を共にした友人夫妻も、男に口ひげがなくなったことに全く触れ…

とうもろこしの乙女、あるいは七つの悪夢(ジョイス・キャロル・オーツ)

1938年にニューヨークで生まれた著者は、短編の名手であるだけでなく、ミステリ、ホラー、ファンタジー、ノンフィクション、児童書など、ジャンルを超えた作品を数多く発表しており、近年はノーベル文学賞候補としても名前があがっているとのこと。ホラ…

迷宮の月(安部龍太郎)

白村江の戦いで日本と唐の国交が断絶してから約40年の間、遣唐使は断絶していたそうです。しかし藤原京を造営し、大宝律令を制定して中央集権国家への道を歩もうとしていた日本には、先進国である唐の制度や文化の輸入が不可欠でした。時の権力者であった…

東福門院和子の涙 下(宮尾登美子)

皇室の外戚となるという家康の野望を実現するために御水尾天皇へ入内させられた、秀忠の末子・和子の御所での生活はスムーズには始まりませんでした。宮廷の女たちの巧妙な妨害によって、床入りどころか夫である帝との会話すらなかなかできずにいたのです。…

東福門院和子の涙 上(宮尾登美子)

かつて著者は「歴史ものは苦手」と語っていたとのことですが、本書と『天璋院篤姫』によって、それまでの男性作家による歴史小説とは異なるジャンルを打ち立てたように思えます。この2冊はどちらも女性の視点から歴史の大きな流れと自分自身の生き方を交差…

赤刃(長浦京)

『リボルバー・リリーが』原作・映画ともに面白かったので、著者のデビュー作である本書も読んでみました。大正デモクラシー時代の東京で陸軍を動員させるに至ったリリーの物語と、徳川家光の時代に江戸市中を戦場と化した殺戮集団を登場させた本書の物語は…

火喰鳥(今村翔吾)

2022年に『塞王の楯』で直木賞を受賞する著者のデビュー作は、まるで「バックドラフト」のような消防小説でした。 かつて江戸随一と呼ばれて火喰鳥の異名を得ていた武家火消の松永源吾は、5年前の事件がきっかけで致仕を余儀なくされ、今は妻の深雪と貧…

花宴(あさのあつこ)

嵯浪藩の勘定奉行を代々務めてきた西野家の一人娘・紀江は、家を継ぐ婿を取ることが定められていました。しかし彼女には亡き母から譲り請けた、人並み優れた小太刀の才がありました。だから藩内で一、二を争う遣い手である十之介との縁談には心を弾んだので…

歌え、葬られぬ者たちよ、歌え(ジェスミン・ウォード)

トニ・モリスンの『ビラブド』を思わせるマジック・リアリズム的な手法を用いて綴られた、アメリカ南部に生きる黒人家族の物語。2017年に全米図書賞を受賞した作品です。女性としても、非白人としても、複数回の受賞は史上初とのこと。 3人の語り手の中…

ひゃっか!(今村翔吾)

「俳句甲子園」や「書道甲子園」は知っていましたが、「華道甲子園」と呼ばれる「全国高校生花いけバトル」なる全国大会があることは知りませんでした。華道やフラワーアレンジメント部員でなくても2人1組で参加でき、当日決定される花と器を用いて5分間…

晴明変生(森谷明子)

「源氏物語」の「かかやく日の宮」が失われた秘密に迫った『千年の黙』、「紫式部日記」誕生秘話である『白の祝宴』、「源氏物語」の一大転換点「若菜」が書かれた背景を綴った『望月のあと』の著者ですから、平安時代を題材とする物語はお手のもの。本書は…

カザアナ(森絵都)

古来から存在していた、さまざまな自然と通じ合う力を持つ「風穴」なる者たちが姿を消したのは、平安時代末期のことでした。自らの武力によって実権を握った平清盛によって粛清されてしまったのです。それを生き延びたのは、後白河院の姪にあたる八条院暲子…

ベル・ジャー(シルヴィア・プラス)

早熟の詩人であった著者が1963年に30歳で自殺する直前に出版された、唯一の長編小説です。内容的にも、女子大在学中に自殺未遂事件を起こして、その後数カ月間精神病院に入院したという著者自身の体験をモチーフとしているため、スキャンダラスな注目…

京都伏見のあやかし甘味帖 10(柏てん)

前巻ラストで年下恋人の虎太郎が失踪。彼の故郷である丹後の地で何が起こったのでしょう。行方捜索にも行き詰ったれんげの前に突然現れたのは、木島神と陰陽師の賀茂光栄でした。光栄は禍の予兆を読み取り、木島神は鬼の気配を感じたというのです。そして鬼…

三十の反撃(ソン・ウォンピョン)

1988年のソウルオリンピックの年に生まれた女の子の名前で、一番人気だったのは「ジヘ(知恵)」だったとのこと。名前のせいではないけれど平凡な人生を歩んできたキム・ジヘは、気が付けば、世の中にも会社にも期待することをあきらめてしまった、30…

忍者に結婚は難しい(横関大)

『ルパンの娘』と同様にTVドラマ化されましたが、基本形は同じですね。宿敵の一族の末裔が結婚してしまったがゆえに起こる大騒動。もし「ロミオとジュリエット」が結婚できていたとしても、両家のライバル関係は変わらなかったのでしょう。本書の宿敵関係…

アーダの空間(シャロン・ドデュア・オトゥ)

不思議な小説です。アーダの名を持つ4人の女性たちの生と死が、500年の時空を超えてループする物語。植民地時代が始まろうとしている1459年のアフリカ西海岸の村で、生後間もない子を失って悲嘆に暮れる若い母、1848年のロンドンで小説家ディケ…

リボルバー・リリー(長浦京)

綾瀬はるかさんが主演する同名の映画を見てきました。とても面白かったものの、主人公の背景や登場人物たちの関係性の説明が最小限だったので、原作を読んでみました。結論は・・よく理解できたものの、映画と小説は別物と考えたほうが良さそうです。もちろ…

時間のないホテル(ウィル・ワイルズ)

世界中で開催される大規模見本市を飛び回るビジネスマンのニールが愛用するのは、巨大ホテルチェーンの「ウェイ・イン」です。あらゆる大都市で広大な空間を占有し、最新の設備を有して完璧なサービスを提供してくれるホテルの特徴は均一性。それはニールに…

しゃばけ20 もういちど(畠中恵)

江戸の大店長崎屋のひとり息子で病弱な一太郎と妖たちの活躍を通して、生命の不思議さに迫るシリーズも本書で20作目。今回は一太郎の身に不思議な出来事が起こってしまいます。 「もういちど」 今年の夏の異常な暑さは、200年ぶりに起こった星の代替わ…

風にのってきたメアリー・ポピンズ(P・L・トラヴァース)

「ウォルト・ディズニーの約束」という映画を見たことがあります。トム・ハンクス演じるディズニーが、エマ・トンプソン演じるトラヴァースに『メリー・ポピンズ』の映画化を交渉する物語。厳しい条件をつけ、映画のアイデアにダメ出しを繰り返すトラヴァー…

メアリ・ヴェントゥーラと第九王国(シルヴィア・プラス)

天才と称されながら1963年に32歳の若さで命を絶った早逝の詩人、シルヴィア・プラスの短編集です、名翻訳者である柴田元幸氏が絶賛していたので読んでみました。もちろん8編すべてが氏の訳によるものです。どの作品からも強いオリジナリティを感じ取…

聖女ジャンヌと悪魔ジル(ミシェル・トゥルニエ)

聖女ジャンヌとはもちろんフランス救国の乙女ジャンヌ・ダルクのことですが、悪魔ジルとはブルターニュの大貴族ジル・ド・レのこと。ペローの童話で有名な殺人鬼「青髭」のモデルとなった人物です。 実はこの2人には接点がありました。天啓を受けたジャンヌ…

京都伏見のあやかし甘味帖 9(柏てん)

粟田口不動産で働くのにも慣れてきたれんげは、またも神様たちの厄介事に巻き込まれてしまいます。きっかけは、村田の旧友である西陣織師の詠美から、祖母の死後行方不明となった愛猫あんこを探し出すよう依頼されたことでした。しかし詠美が知っているだけ…