りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

メアリ・ヴェントゥーラと第九王国(シルヴィア・プラス)

天才と称されながら1963年に32歳の若さで命を絶った早逝の詩人、シルヴィア・プラスの短編集です、名翻訳者である柴田元幸氏が絶賛していたので読んでみました。もちろん8編すべてが氏の訳によるものです。どの作品からも強いオリジナリティを感じ取れますが、決して暗いばかりではありません。著者の唯一の長編である『ベル・ジャー』も読んでみたくなりました。

 

「メアリ・ヴェントゥーラと第九王国」

カレッジ在学中に授業で書かれた短編ですが、既に女性に対する抑圧からの開放がテーマとなっています。両親によって若いメアリが強引に乗せられた列車は、どこに向かっているのでしょう。そしてメアリが引いた非常停止の紐は何を意味しているのでしょう。

 

「ミスター・プレスコットが死んだ日」

知人の父親の葬儀に出た娘は、母親の言いつけ通りにおとなしく振舞っていたのですが、父親を亡くしたばかりの友人たちは、意外な行動に出るのです。抑圧者は消え去った後にも、被抑圧者の中に何らかの痕跡を残しているようです。

 

「十五ドルのイーグル」

名人彫り師による見事なイーグルのタトゥーの値段が15ドル。興味津々で水兵の腕にタトゥーが彫られる様子を見学していた少女が意識を失った場面は、著者の実体験だそうです。

「ブロッサム・ストリートの娘たち」

巨大な総合病院の看護師たちの会話からなる作品です。死亡した患者の安置場所がブロッサム街に面した部屋なのですが、悲劇的な死も英雄的な死も行き着く先は同じという寓意を含んでいるのでしょうか。しかしこの短編は「ユーモアにあふれ、人物は色彩豊か、リズミカルな良質の会話」からなる切れ味の良い作品なのです。

 

「これでいいのだスーツ」

まだ7歳で7人兄弟の末っ子のマックスは、自分用のスーツを欲しいのです。ある日一家に届いたスーツは誰の手に収まるのでしょう。「これでいいのでした」の繰り返しが楽しい児童向け作品です。こんのも書いていたんですね。

 

「五十九番目の熊」

イエローストーンにキャンプに来たカップルは、5日間で58頭もの熊を目撃します。しかし59頭めが、彼らにとっての運命の熊になってしまうのです。著者は1959年にここで67頭もの熊を目撃したそうです。私が2001年に訪れた時はゼロでした。数十年の間に激減してしまったということなのでしょうか。

 

「ジョニー・パニックと夢聖書」

精神科医師の秘書として働く女性は、他人の夢の蒐集に取り憑かれていました。それはジョニー・パニックと名付けた彼女だけの神に捧げるためだったのですが、彼女にも生贄となる順番が回ってきたのです。著者はマサチューセツ総合病院で働いたことも、自殺未遂の際に治療を受けたこともあるとのこと。

 

「みなこの世にない人たち」 

ネリーの家を訪れるのは、亡くなった者たちの霊なのでしょうか。著者が夫から聞いた話がベースになっているとのことですが、祖先たちとの和解がテーマのようです。

 

2023/11