りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

青春とは、(姫野カオルコ)

60代になった乾明子は、コロナ禍でステイホームを余儀なくされて部屋の掃除を始めたところ、高校の先輩から借りたままになっていた本を発見。それをきっかけとして、学校だけが居場所だった高校時代の臣でが鮮やかに蘇ってきます。抑圧的な両親のもとで息を潜めるようにして暮らしていた明子にとって、学校こそが当時の居場所だったのです。

 

フィクションですが、昭和50年代に滋賀県の共学高校を卒業した著者の実体験が詰まっている作品です。南十字星のように輝いていたミッシェル・ポルナレフやスタイリスティックス。「ミュージック・ライフ」や「FMレコパル」などの音楽雑誌。ラクウェル・ウェルチやオリビア・ハシ―などの映画女優。「ラブアタック!」、「パンチDEデート」などのTV番組。しかし彼女にとって大切だったものは、ずっと思い出すこともなかった当時の友人たちでした。

 

胸キュンな恋も打ち込んだ部活もなく、放課後に時を過ごせる繁華街もスマホもなかった時代。馬車の御者のように存在感のなかった担任や、田舎町にはド派手すぎた新任の保険室の先生。西城秀樹浅田美代子に例えられたクラスの人気者たち。今から思うと理解が及ばず、間違いだらけのことばかりしていた頃。それでも雑多な者たちが集まっていた「芸術クラス」で学んだ1年間の体験が、その後の明子を支え続けていたのでしょう。

 

著者は本書について「定年後の人々のための青春小説」と語っています。「未来しかなかった高校時代」と「その未来の大部分が過去になってしまった今」を対比する寂しさと愛しさは、青春真っただ中の人には伝わらないでしょう。それでも若い人たちに読んで欲しいと思える作品です。

 

2023/5