りぼんの読書ノート

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聖女ジャンヌと悪魔ジル(ミシェル・トゥルニエ)

聖女ジャンヌとはもちろんフランス救国の乙女ジャンヌ・ダルクのことですが、悪魔ジルとはブルターニュの大貴族ジル・ド・レのこと。ペローの童話で有名な殺人鬼「青髭」のモデルとなった人物です。

 

実はこの2人には接点がありました。天啓を受けたジャンヌが1429年にシノン城を訪れた時、ジルは王太子シャルルの側近として奇跡を目撃しているのです。25歳のジルは、17歳のジャンヌの中に、充血無垢の光を見出していました。ジルはジャンヌに協力してオルレアンを解放し、パテ―で勝利し、ランスでの戴冠式を実現させていきます。しかし栄光はここまででした。無気力なシャルル王がしり込みしたことでパリ解放はならず、ジルは領地へと戻されます。そしてコンピエーニュの悲劇が起こるのです。

 

ジャンヌの「聖」が「魔」と見なされてルーアンで処刑されるとともに、ジルは悪魔へと変貌します。黒魔術に耽り、多くの子供を虐殺し、ついには自らも火刑の炎に焼かれるに至るのですが、彼の内面では何が起こっていたのでしょう。それは神に対する絶望なのか。それとも「ルーアンの魔女」とされたジャンヌに従おうとの狂おしい思いだったのか。後にジャンヌが聖女として復権したのに対し、ジルは地獄に留まり続けなくてはならなかったのですが・・。新書版で200ページほどの中編ですが、ジャンヌの死や、ジルの悪魔としての再生と死を、簡潔ながら美しい文章で綴り上げた密度の濃い作品でした。

 

2023/11