りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2011-01-01から1年間の記事一覧

2011 My Best Books

今年も最後に1年を振り返っての「ベスト本」を選んでみます。 長編小説部門(海外) バウドリーノ(ウンベルト・エーコ) 大傑作『薔薇の名前』が「中世における異端」をテーマとした物語であるとしたら、この本は「中世における虚構」をテーマとした作品と…

2011/12 巨人たちの落日(ケン・フォレット)

大震災・津波被害・原発事故が起きた今年を締めくくる一冊としては、3位にあげた『神様2011』がふさわしいように思えます。「震災以降の日本文学」は書き手と読み手の双方の大きな課題ですが、本格的に小説化されていくのは来年以降になるのでしょう。 …

凛と咲く(日々野真理)

悲しいことが起きた1年でしたが、今年最後のレビューは今年一番の快挙を振り返った作品で締めくくりましょう。 女子ワールドカップの決勝戦は、出張先のアメリカのホテルのバーで見ました。日本を応援していたのはたった1人。澤の同点ゴールの時には思わず…

みをつくし料理帖6 心星ひとつ(高田郁)

両親も奉公先も水害で失って、大阪から江戸に出てきた女性料理人の澪を主人公とするシリーズ6作めでは、彼女に大きな転機が訪れます。ひょっとして澪ちゃん、「モテキ」に入ったかしら?でも、素直には喜べないことばかりなんですね。 「青葉闇-しくじり生…

侍とキリスト(ラモン・ビラロ)

日本にキリスト教を伝道したフランシスコ・ザビエルは、死後列聖されているものの、本国での知名度は決して高くないとのことです。本書はスペイン人著者がスペインの読者を対象にして書いた、ザビエル日本布教の物語。 イエズス会でロヨラの盟友だったザビエ…

洋梨形の男(ジョージ・R・R・マーティン)

「サイコ・ホラー」系の作品が多く収められていますが、決して後味が最悪というわけでもありません。とりわけ良くもありませんが・・。 「モンキー療法」 全てのダイエットに失敗した男が最後にたどり着いた方法は、背中に取りついた見えない猿に全ての食べ…

世界は「使われなかった人生」であふれてる(沢木耕太郎)

「進め!電波少年」の看板企画だった「無銭世界旅行」のもととなったと言われる『深夜特急』の著者による、映画評論です。「もし別の決断をくだしていたら別の人生があったのではないか・・」との思いを、映画の世界に仮託したエッセイのような作品に仕上が…

獅子頭(シーズトォ)楊逸

ハルビンに生まれて日本に留学し、そのまま日本の文壇にデビューした著者による、中国から日本に帰化した青年の成長物語です。「日本に来て22年たっても完璧な日本人の価値観にはならない」と語る著者の思いも込められているのでしょう。 中国東北部の貧し…

月下の恋人(浅田次郎)

浅田さんが得意とする「人情もの」が、いわゆる「奇譚」的な色彩を帯びて綴られます。 「情夜」全てを失った男に手紙を届けた謎の女性は、自己再生のための幻? 「告白」血の繋がらない娘と義父は、雪をきっかけに和解できるのでしょうか。 「適当なアルバイ…

八十日間世界一周(ジュール・ヴェルヌ)

何度も映画化された作品です。映画の印象があったので、どこで気球に乗るのか期待しながら読んでいたのですが、原作には気球は登場しないんですね。 1872年10月2日午後8時45分、ロンドンの謹厳な資産家であるフォッグ氏は従者のパスパルトゥーを連…

天使の運命(イサベル・アジェンデ)

著者の処女作にして大傑作『精霊たちの家』に続く3部作の1作目にあたる作品は、出生に秘密がありながら、チリに住むイギリス人家族に養われている少女エリサの恋愛と成長と物語。 エリサの娘リンが産み落とした女児オーロラの物語が2作目の『セピア色の肖…

火車(宮部みゆき)

先日TVドラマ化された作品の印象が、原作とかなり変わっているように思えて読み返してみましたが、意外なことにストーリーも展開もほとんど一緒でした。 休職中の刑事が遠縁の男性に頼まれて、突然失踪した婚約者・関根彰子の行方を捜索する過程で、全くの…

誰かが足りない(宮下奈都)

こじんまりとしているけれど人気があって、予約を取りにくいレストラン「ハライ」で偶然同じ時間に客となった人々の、来店に至るまでの6つのエピソードからなる物語。皆それぞれ事情を抱えながら、前向きの決心をするために来店するのです。 故郷を出て8年…

セメント・ガーデン(イアン・マキューアン)

主人公の少年は14歳。発作を起こして突然死した父親が残したものは、庭の手入れをしようと買い付けた大量のセメントでした。その翌年に母親が病死すると、少年と姉は、母親の死体をコンクリート詰めにして地下室に隠します。母の死を大人たちに知らせると…

孔雀茶屋-ひやめし冬馬四季綴3(米村圭伍)

シリーズ第3作です。かつて田沼意次とやりあった風見藩の『退屈姫君』ことめだか姫が、目高院となって再登場。それとやはり風見藩の榊原数馬老は、『風流冷飯伝』の飛旗数馬でしょうか。香奈というステキな奥方と幸せに暮らしているようなのは何よりです。 …

黄金の騎士団(井上ひさし)

2010年に亡くなった井上ひさしさんの「未完の遺作」です。かつて『吉里吉里国』を日本から独立させてユートピアを作ろうとした著者が最後に描いた夢は、「子ども共和国」でした。 四谷にある「聖母の騎士園・若葉ホーム」は、300人の孤児を育てた私設…

鋼の夏(シルヴィア・アヴァッローネ)

イタリア中部、エルバ島に向かい合う製鋼所の町ピオンビーノで生まれ育った14歳の2人の少女、アンナとフランチェスカは親友同士でしたが、アンナが兄の友人に恋をしたことから、2人の友情はすれ違っていきます。 もともと2人の家庭は問題を抱えていまし…

神様2011(川上弘美)

1993年に書かれた著者のデビュー作『神様』と、福島原発事故を受けてリメイクされた『神様2011』が併録されています。 隣に引っ越してきた律儀なくまと散歩するというできごとを淡々と書き綴って「悪くない一日だった」とする『神様』は、人との距離…

廻廊にて(辻邦生)

辻邦生さんの鮮烈なデビュー作を再読しました。2つの大戦の間の時代に短くも鮮烈な「生」を生きた画家マーシャの人生を、パリで画家仲間であった日本人の「私」が再構成していくとの仕立てを用いて、著者が終生のテーマとした「人生が凝縮される特別の瞬間…

非道、行ずべからず(松井今朝子)

文化6年(1809年)6月、江戸最大の劇場であった中村座が炎上し、焼け跡から絞殺された男の死体が見つかった所から、物語が始まります。 男の正体は楽屋に出入りしていた小間物屋だったのですが、誰が何の為に殺害したのか。犯人は芝居に関わる身内なの…

花紋(山崎豊子)

大学で文芸を専攻した主人公は、戦中に世話になった御寮人様が大正歌壇に彗星の如く登場して突然消息を絶った美貌の女流歌人「御室みやじ」であったことに気づきます。しかし国文学者の荻原秀玲が編纂した歌集では、彼女は昭和2年に20代半ばの年齢で夭折…

リトル・シスター (レイモンド・チャンドラー)

チャンドラー本人が「嫌い」というこの作品は、ハリウッド内幕というプロットが優先されすぎ、最後まで読んでも誰が誰を殺したのかわからないほどストーリーも混乱しており、主人公のマーロウも疲れているようなのですが、村上春樹さんは「愛おしい作品」と…

ロング・グッドバイ(レイモンド・チャンドラー)

村上春樹さんが「別格の存在」という本書は、もちろんハードボイルドの聖典であり、「さよならを言うのは少しだけ死ぬことだ」とか「ギムレットにはまだ早い」などの名言も数多く登場するのですが、村上春樹さんの新訳によるフィリップ・マーロウはまるで訳…

巨人たちの落日(ケン・フォレット)

巨匠ケン・フォレットの描く、20世紀をテーマにした「百年3部作」の第1作は、欧米各国にまたがる5家族・8人の主人公を中心に、第一次世界大戦とロシア革命を描いた大河ドラマです。「巨人たち」とは、戦前の欧州を支配していた者たちのこと。落日を迎え…

不愉快な本の続編(絲山秋子)

不愉快な本を握りしめて彷徨する、嘘つきで変態で金貸しでヒモ野郎の主人公。年上の女との爛れた関係にうんざりして東京を逃げ出し、新潟で出会った女性を本気で好きになって結婚しながら「不愉快な過去」を共有できない妻とは結局は別れてしまい、富山の美…

数えからくり(田牧大和)

女錠前師のお緋名を主人公とする『緋色からくり』の続編です。 幼馴染みのハンサムな床屋の甚八や、お調子者でも芸には厳しい深川芸者の祥太、隠密目明しの康三郎、黒鉄屋の若旦那だったのに店が潰れて錠前師見習となった与治郎などは既にレギュラーメンバー…

緋色からくり(田牧大和)

傑作時代小説『三悪人』の作者は、若い女性だそうです。他の作品も読んでみたくなり、この本を手に取りました。 主人公は、亡くなった父親の後を継いで錠前師となった娘のお緋名。姉とも慕った年の近い叔母のお志麻が殺されてから4年後、お志麻の飼猫だった…

2011/11 ものすごくうるさくて、ありえないほど近い(ジョナサン・サフラン・フォア)

アメリカの「ポスト9.11小説」は早い時期から書かれていましたが、文学的に優れた作品が出版されるようになったのは、この数年のことと思えます。今月1位にあげた作品も、そんな1冊。 日本において「ポスト3.11小説」が本格的に書かれるようになる…

ボグ・チャイルド(シヴォーン・ダウド)

1981年の北アイルランド。イギリスの大学に進んで医者になることを目指している高校生のファーガスは、叔父と一緒に小遣い稼ぎに泥炭の盗掘に行った際、国境近くの湿地(ボグ)で2000年前に絞殺され、泥炭によって保存された少女の遺体を発見します…

やなりいなり(畠中恵)

「しゃばけシリーズ」の10作めは、独特の死生観や世界観を前面に出して少々重いテーマを扱った前2作から一転して、若だんなと妖怪たちの日常がほのぼのと描かれます。物語に登場する料理やお菓子のレシピが紹介されているのは、高田郁さんの『みをつくし…