りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2015-11-01から1ヶ月間の記事一覧

2015/11 パールストリートのクレイジー女たち(トレヴェニアン)

今月の1位は、トレヴェニアンの遺作となった自伝的な作品にしました。途中まで、「クロニクル4部作」が凄い作品だと思っていたのですが、最終巻のエンディングの読後感が悪すぎます。まだ20代と若い時代小説作家・谷津矢車さんの作品には「伸びしろ」を…

上野池之端鱗や繁盛記(西条奈加)

騙されて江戸にやって来た少女・お末の奉公先は、話に聞いていた有名料理店ではなく、連れ込みまがいの料理屋「鱗や」でした。しかし、少しでもお客を喜ばせたいというお末の熱意は、入り婿の若旦那を動かし、名店と呼ばれた昔の姿を取り戻す挑戦が始まりま…

洛中洛外画狂伝(谷津矢車)

1986年生まれの、若い時代小説作家のデビュー作です。主人公は戦国末期に現れた稀代の天才絵師、加納永徳。名門の嫡男でありながら伝統や常識を超越したことは、若くして家督を弟の宗秀に譲った後に、安土城、聚楽第、大阪城の障壁画を制作したことが証…

馬律流青春双六-ふりだし(谷津矢車)

著者は1986年生まれというから、まだ20代。小学校5年生の時にマンガ「るろうに剣心」を読んで時代劇にはまったという、恐ろしいくらいに若い書き手ですが、結構おもしろい。日経新聞の書評欄で昨年の作品である『蔦屋』が絶賛されていたので、まずは…

パールストリートのクレイジー女たち(トレヴェニアン)

物語は、著者の投影と思しき6歳の少年が、ニューヨーク州都オールバニーのスラム街であるパールストリートに引っ越してきた時から始まります。時代は1936年。若い母親ルビーと3歳の妹アン・マリーの3人は、長く不在だった父親から指定された住所にや…

神秘列車(甘耀明)

「白水社エクスリブリス」で2冊続けて、台湾の若い世代の作品が紹介されましたが、2人の作風は大いに異なっています。『歩道橋の魔術師』の呉明益(ウー・ミンイー)は台北生まれの都会派であるのに対し、先住民族と共に暮らした客家を先祖に持つ甘耀明(…

まんまこと5 まったなし(畠中恵)

『まんまことシリーズ』の第5巻にあたります。『しゃばけシリーズ』ともっとも異なっている点は、妖が登場しないことよりも、時間が流れていることなのでしょう。本書でも、麻之助の親友・清十郎と、かつて麻之助が想いを寄せていた清十郎の義母・お由有の…

もののけ、ぞろり(高橋由太)

「時代劇ファンタジー」なのでしょうが、全体構成も、場面描写も、クォリティの高さを感じることができませんでした。発想が優れているのかとも思ったのですが、巻末の解説を読むと、あるコミック作品の設定を借用しているだけのようですし。なぜか続巻も出…

女のいない男たち(村上春樹)

村上春樹さんの9年ぶりの短編集は、『東京奇譚集』と同様に「コンセプト・アルバム」になっていました。しかし「女のいない男たち」とは、なんとストレートなタイトルなのでしょう。村上さんの多くの作品のテーマが「女性を失った男性の物語」なのですから…

大いなる眠り(レイモンド・チャンドラー)

「フィリップ・マーロウ・シリーズ」の第1作であり、ハードボイルド史上の古典ともなっている作品です。「軽妙な語りを得意とする主人公、裏がありそうな依頼、謎めいた美女からの誘い、探偵への脅迫と暴行、無関係に見える連続殺人事件、ほろ苦い真相」と…

高い窓(レイモンド・チャンドラー)

村上春樹さんによるチャンドラーの新訳の5冊めです。チャンドラーの長編は7作あるとのことですが、全部の翻訳を試みるつもりであることが巻末に記されていました。残り3冊の新訳を、楽しみに待ちましょう。 私立探偵フィリップ・マーロウの今度の仕事は、…

岳飛伝 12(北方謙三)

梁山泊水軍総帥の張朔との決戦に敗れた後の韓世忠は、南宋宰相の秦檜からも見放されたようで、ほとんど海賊状態ですが、梁山泊の商船を何艘も沈めるようでは捨て置けません。実戦から遠ざけられていた李俊が、韓世忠退治に名乗りを上げます。水軍の次の焦点…

岳飛伝 11(北方謙三)

金の兀朮が率いる10万の騎馬軍が、ついに梁山泊の呼延凌軍と全面対決。ともに多くの将兵を失う激戦が繰り広げられますが、またしても決着はつきません。もはや、戦闘で何かの決着がつくような時代ではなくなっていることを象徴しているかのようです。 南方…

プラダを着た悪魔リベンジ!(ローレン・ワイズバーガー)

前作『プラダを着た悪魔』の10年後の物語。ファッション誌「ランウェイ」の鬼編集長ミランダのもとを去ったアンドレアには、さまざまなことがありました。 やはり「ランウェイ」を退職していた先輩のエミリーと再会して気まずい雰囲気を味わったものの、今…

クロニクル4.最後の罠(リチャード・ハウス)

シリーズ最終作となる第4部は、再びイラクにおける不正事件へと戻ってきます。ただし本書の主人公は逃亡を続けるサトラーでも、彼を追う使命を課せられたパーソンでも、不正焼却で健康被害を受けたレムでも、第1部で行方不明になったエリックでもありません…

クロニクル3.ある殺人の記録(リチャード・ハウス)

イラク復興計画に関連する不正事件を描いた『第1部・トルコの逃避行 』と『第2部・砂漠の陰謀』の続編は、「作中作」へと一転します。 本巻のタイトルである「ある殺人の記録」とは、第1部で行方不明になったアメリカ人青年エリックが読んでいた本であり…

クロニクル2.砂漠の陰謀(リチャード・ハウス)

『第1部.トルコの逃避行』で、サトラーが犯人とされた、アメリカのイラク軍事基地を建設する民間企業HOSCOを舞台にした横領事件は、奥の深い陰謀でした。第1部の前日譚である本書では、陰謀の別の側面が描かれていきます。 本書の主人公は、やはりH…

クロニクル1.トルコの逃避行(リチャード・ハウス)

イラクの砂漠に軍事基地を建設する大プロジェクトの現地責任者を務める英国人のサトラーは、問題が発生したために現地を去るように言い渡されます。しかし、それは罠でした。サトラーは、彼が訪れた先で起こった爆発事件と、巨額の横領事件の犯人として、追…

笹の舟で海をわたる(角田光代)

本書の主人公である左織は、昭和8年(1933)生まれ。終戦から10年たった昭和30年、22歳の左織は「疎開先が一緒だった」という風美子から声をかけられ、2人の女性の長い関係が始まります。実は、風美子が左織と出会ったのは、偶然ではありません…

闇の王国(リチャード・マシスン)

老境に入ったベストセラー作家の回想というスタイルで書かれた作品です。第一次世界大戦の塹壕で出会った戦友の遺志に従って、彼の故郷であるイングランド中部の村を訪れた青年が、不思議な体験をする物語。「恐怖の数々」とか「この世のものならぬ怪異」の…

包囲(ヘレン・ダンモア)

1941年9月。ナチス・ドイツ軍によって完全包囲されたレニングラード。厳寒と飢餓が牙を剥く極限状況。スターリンの圧政とヒットラーの包囲という二重苦のもとで、歴史上もっとも絶望的な冬を生き抜いた恋人たち・・というと、思い切りドラマチックな展…