りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2024-05-01から1ヶ月間の記事一覧

2024/5 Best 3

1.賢者たちの街(エイモア・トールズ) 1938年のニューヨークを舞台とする若い女性のほろ苦い成長物語。庶民階級出身ながら才能に溢れるタイピストのケイトは、偶然出会った青年銀行家によって上流階級の青年たちのサークルに招き入れられます。しかし…

賢者たちの街(エイモア・トールズ)

1938年のニューヨークを舞台とする若い女性のほろ苦い成長物語。マンハッタンでタイピストとして働いているケイトは、1937年の大晦日にルームメイトのイブと一緒にジャズバーで僅かな持ち金を使い果たしたところでした。そこで若くて紳士的な銀行家…

大福三つ巴(田牧大和)

江戸・下谷の小さな版元である宝来堂は、美人の寡婦で女主の夕、家族を亡くして夕に引き取られた姪の小春姪の小春、摺師と彫師を兼ねる政の3人だけ。もっぱら小春が描く名所画を摺り売っているのですが、頼まれ仕事も請け負っています。しかし宝来堂で板木…

双風神(今村翔吾)

江戸中期、田沼時代の火消したちの活躍を描く「羽州ぼろ鳶組シリーズ」の9作目になります。第1作『火喰鳥』の出版から2年半で9作というのは信じられないハイペースですが、レベルを落していないのは流石というもの。 本書の舞台は商都・大坂であり、京が…

国道16号線(柳瀬博一)

サブタイトルは「日本を作った道」横須賀から、横浜、町田、八王子、川越、柏などを経て木更津まで、東京をぐるりと囲む16号線エリアの歴史をたどる文明論です。国道16号線が整備されたのは1960年代であり、その沿線は「東京郊外」のイメージが強い…

こちら横浜市港湾局みなと振興課です(真保裕一)

昨年夏に久しぶりに横浜港周辺を散策しました。大桟橋と象の鼻防波堤、キング・クイーン・ジャックの横浜三塔、開港資料館に海岸教会、赤レンガ倉庫にマリンタワー、そして馬車道と中華街。やはり魅力あるエリアです。本書は、そんな街にある横浜市港湾局み…

上海灯蛾(上田早夕里)

バイオSFでデビューした著者は、近年では室町時代や未来の陰陽師ファンタジーなども書いていますが、本は『破滅の王』や『ヘーゼルの密書』に続く日中戦争時代の上海を舞台とする物語。「戦時上海3部作」の最終巻です。 1934年。「魔都」と呼ばれる上…

荒野へ(ジョン・クラカワー)

1992年4月。東海岸の裕福な家庭に育った若者が、ヒッチハイクでアラスカまでやってきて、マッキンレー山裾野の荒野に単身徒歩で入っていきました。その若者クリストファー・マッカンドレスは4カ月後に、放置されたトレイルに打ち捨てられたバスの中で…

新古事記(村田喜代子)

日米開戦後の1943年。日系3世であることを隠して生きてきた若い女性アデラは、恋人の物理学者ベンに連れられてロスアラモスへとやってきました。そこはオッペンハイマー、ノイマン、ボーア、フェルミらをはじめとする錚々たる物理学者たちが集まって秘…

汝、星のごとく(凪良ゆう)

瀬戸内の島で育った高校生の暁海と転校生の櫂。ともに心に孤独と欠落を抱えた二人は惹かれ合って結ばれるのですが、卒業後に櫂が上京するとともにすれ違いが始まります。と書くと「木綿のハンカチーフ」のような切ないラブストーリーのようですが、本書のテ…

未来散歩練習(パク・ソルメ)

『もう死んでいる十二人の女たちと』で、過去の光州事件や未来に起こり得る原発事故に対する静かな批判を抒情的に綴った著者が、釜山アメリカ文化院放火事件を題材として紡ぎあげた作品です。放火事件が起こったのは1982年のこと。2年前の光州事件で軍…

笑い神(中村計)

いくつもあるお笑いのタイトルの中で、2001年から始まった「M1グランプリ」は別格の存在です。それは1千万円という高額賞金のみならず、無名の芸人を一夜にしてスターへと駈上らせるコンテストなのです。吉本興業内に作られた1人だけの新部署「漫才…

玉麒麟(今村翔吾)

江戸中期、田沼時代の火消したちの活躍を描く「羽州ぼろ鳶組シリーズ」も8作目になりました。今回の主役は頭取松永源吾を補佐する頭取並の鳥越新之助。侍火消にして府下十傑に数えられる剣の達人であり、しかも愛されキャラでありながら、今まで影が薄かっ…

モノクロの街の夜明けに(ルータ・セペティス)

ルーマニア出身で最も恐ろしい人物はドラキュラではありません。24年間もの間、自分の城に居座って、2300万人もの人々に害を及ぼし、食料を、電気を、真実を、自由を奪った邪悪で残忍な人物がいたのです。その人物の名はチャウシェスク。本書はひとり…

あの子とQ(万城目学)

直木賞受賞作『八月の御所グラウンド』の1~2年前に書かれた作品ですが、こちらの方がずっと好みです。なんせ主人公は吸血鬼の女子高生なんですから。しかし現代の吸血鬼は人間社会に溶け込んでいて、血も吸わず、太陽も十字架もにんにくも平気で、そもそ…

八月の御所グラウンド(万城目学)

2024年1月の直木賞受賞作であり、デビュー作の『鴨川ホルモー』以来16年ぶりに京都を舞台とする青春小説なのですが、なんとなく物足りなさを感じました。あまりにも直球すぎて、著者独特の世界観が薄めに感じられてしまったのです。ところどころ破綻…

シャーロック・ホームズの凱旋(森見登美彦)

舞台はヴィクトリア朝京都。御所があるはずの場所には女王が住まうネオクラシック式の宮殿が建ち、鴨川沿いには壮麗な国会議事堂と時計塔が聳え立つ。そして寺町通221Bのハドソン家には洛中洛外に勇名を轟かすシャーロック・ホームズが居を構えていたの…

怪獣保護協会(ジョン・スコルジー)

SF名作へのオマージュ作品を書かせたら、著者の右に出る人はいないでしょう。ハインライン『宇宙の戦士』への『老人と宇宙(そら)』シリーズ、や、フィリップ・K・ディック『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』への『アンドロイドの夢の羊』、TVドラ…

虫娘(井上荒野)

「樅木照(ひかる)はもう死んでいた」という衝撃的な書き出しですが、本書の語り手は死後も空中を彷徨う照の意識です。4月の雪の朝に、庭に積もった雪に裸で伏せて眠るように亡くなった照の死は、自殺だったのか、事故だったのか、それとも犯人がいるのか…