りぼんの読書ノート

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国道16号線(柳瀬博一)

サブタイトルは「日本を作った道」横須賀から、横浜、町田、八王子、川越、柏などを経て木更津まで、東京をぐるりと囲む16号線エリアの歴史をたどる文明論です。国道16号線が整備されたのは1960年代であり、その沿線は「東京郊外」のイメージが強い地域ですが、ルーツは旧石器時代に遡るとのこと。旧石器時代の遺跡、縄文時代の遺跡や貝塚。中世の城、現代の大学の分布図が、そっくり16号線と重なっているのです。

 

著者の仮設は「山と谷と湿原と水辺」がワンセットになった「小流域地形」が古くから人々を呼び寄せたというものです。南は東京湾、北は利根川や荒川などの大河、東西は関東平野を囲む山地の麓に囲まれた地域には、無数の小さな河川流域と台地が存在しており、大規模な治水技術を要することなく生活を営むことが可能だったというのです。さらに三浦半島と房総半島という2つの半島の存在が海との連携を容易にすることで、日本各地の湊や海外との文化交流を促進し続けたというのです。

 

その結果、船と馬と飛行機の基地となった16号線エリアは、武家社会においては「牧」として鎌倉や江戸に牛馬を供給し、明治期には絹輸出港である横浜に向かうシルクロードとなり、戦後は数多く置かれた進駐軍基地が戦後日本の音楽や文化を生み出したとのこと。著者はユーミンについて多くを語っていますが、ある程度の説得力は感じます。

 

もうひとつの著者の主張は、徳川家康が「江戸時代以前の関東の歴史を消し去った」というものです。神君家康の偉大さを強調するために、入府以前の江戸が「何もない湿地」であったとの歴史を捏造したというのですが、どうなのでしょう。その結果が「翔んで埼玉」に見られる「低い都会指数エリア」イメージに繋がっているのか・・。証明は難しいのでしょうが、発想の転換が16号線エリアに明るい未来をもたらすことになるのかもしれません。

 

2024/5